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出会い
今日もまた変わらない日々が続くと思っていた
あの日までは
出会いや別れを繰り返して忙しい季節だ
今年も綺麗な桜が咲いている
桜を見ると何とも言えない悲しい気持ちになり、誰かを探してるような感じになる
その小さな誰かの背中を今でも追いかけてる
手を伸ばしても決して届かず、泡のように消えていく
「ゆーや?」
ぼんやりと綺麗な桜をみているとその木の下にはこの大学構内では見慣れない人がいた
ズボンにYシャツとラフな格好をした華奢で小柄な彼から目が離せなかった
「雄也って!」
「あ、ごめんごめん、はる!れん!」
何かに見惚れてボーとしている香住雄也は宇都宮学院大学に通う医学部生
そんな彼に声をかけるのは高校のときに出会った2人組み
黒髪に少し茶色が混じった短髪の顔が整った彼は綾瀬悠、看護学生
黒髪のスポーツ刈りで片耳にピアスをしたイケメンの部類に入るが一見不良みたいな印象を受ける彼は水城蓮、栄養学部に通う
「どーかしたか?ボーとして。」
何度呼んでも反応がなかった彼に声をかけたのは綾瀬悠、悠の隣りではケータイを触る水城蓮の姿がある。
「あ……ううん、何でもない。昼飯行こうか」
雄也は気を取り直して悠達に笑顔を向ける
構内の食堂へ足を向けるがどうしても気になって再度振り返るもそこに彼はもういなかった
宇都宮学院大学
都内でも屈指の有名な大学の構内にある大きな桜の木を見上げる人がいた
その桜にそっと手を伸ばす姿は儚く淡く消えて行きそうな何とも言えない光景だ
「とも、お待たせ。ごめんね、遅くなって」
そんな彼に声をかけたのはラフな格好をした男性、羽澄真尋この大学のOBでこの大学の知人に用があったという
「行こうか、ちょっと疲れた?」
羽澄が声をかけるマスク姿の彼は音無朋也、過去に原因があり声を失った彼は身振り手振りで会話する。顔に出やすい彼は羽澄と問題なく過ごしている。
「何食べたい?」
そんな会話しながら二人は歩いていく
大学から数分歩いてみつけた定食屋に入った2人はハンバーグ定食と唐揚げ定食を注文した
「久し振りの外出はどうだ?」
注文したものが運ばれてくる間に他愛ない話しをする2人、羽澄の言葉に朋也は身振り手振りで伝えたりケータイに打ち込んだりしてコミュニケーションを取る
「ほう、『桜がきれい』か、そうだな。いつもより時期は早い気がするが…今が丁度満開だな。飯食ったら花見に行くか?そこの公園」
朋也がケータイに打ち込んだ言葉を見ていう羽澄は穏やかな表情で少し笑って言う
羽澄の言葉に朋也は困った顔をして、羽澄の顔をチラチラと伺うようにみる朋也
「とーも、俺の用事はもう終わったんだ。な?迷惑になるとか考えるな。もっと我儘を言ってほしいなー。かれこれ何年も言ってるけど」
羽澄は朋也の頭を優しく撫でながら言う
そんなこんなで2人の前に頼んだ定食が運ばれてきて手を合わせ箸を手に取り食べていく
暖かな陽気で優しい風が吹く
大学での講義を終えた彼、香住雄也は寄り道をしようと大学から少し離れたところにある公園へ来ていた
その公園には綺麗な桜並樹が続いている
親子連れやカップルで賑やかな少し広くベンチなとが設置されている遊歩道
そのあるベンチに座り桜を眺めている一人の青年に自然と瞳が離せなくなる
ラフな格好にスラッ線が細い体、服の袖口から見える腕は白く折れそうなほど細い
彼はマスクをしているため表情を読むのは難しいが、桜を眺める姿はどこか寂しそうだ
そんな彼のそばに一匹の犬が尻尾を振って駆け寄っていく。その犬をワシャワシャと撫でる彼はマスクしてもわかるほど穏やかな表情だ
「おい、雄也。こんなとこで立ち止まって何してんだよ、ケータイくらい見ろし。返事しろ!、心配するだろーが」
そんな雄也の背中を叩くのは蓮だ
「あ、蓮」
とぼけた声を出す雄也だがそんな彼の足元にカラフルなテニスボールのようなものが転がってくる
そのボールを追いかけて駆け寄ってきた一匹の犬
あの青年と戯れていた犬だ
ミルクティー色の綺麗な少し長い毛並みの大型犬
しばらくしてあの青年がやって来た
声は出さず申し訳なさそうな顔をして頭を下げる
転がっているボールを拾うとまた頭を下げて雄也たちに背を向けていく
「おい、一言くらい声に出して」
言葉にしない彼に苛立ったのか蓮が声を荒げ彼の肩を掴む
振り向いた彼は驚いた顔をしている
その隣りの犬が彼を守るように立ち蓮に威嚇する
"すいません、僕は声が出すとこができません"
彼はケータイに打ち込んだ言葉を雄也たちに見せる
"声が出せない"
そのセリフに言葉を失う雄也たち
彼、音無朋也との出会いだ
「ごめん、声が出せないことを知らなかったとは言え酷いことした。近くのカフェで少し…話さないか?」
その雄也の話しで3人と一匹は近くにあるカフェへ向かった
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