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うそつき祝い
仕事から帰ると妻が笑顔で出迎えてくれた。エプロンの下のお腹はふくらみがずいぶん目立つようになっている。授かり婚で一緒に住むようになってもう半年だ。
「ちょうど夕飯できたところだから食べよ」
ダイニングテーブルの上にはたくさんの器が並んでいた。席に着きながらざっとそれらを見るうちに、おや?と思った。
湯豆腐に豆腐田楽に豆腐ハンバーグ。ゴーヤチャンプルーと味噌汁にも豆腐が入っている。まるで豆腐のフルコースだ。
「なにこれ。豆腐ばっかじゃん」
「そうよ。だって今日は12月8日だもん」
だっての意味がわからない。今日の日付と豆腐料理がどう繋がるのか。豆腐の日か?いやそれなら10月2日のほうが妥当だろう。仮に豆腐の日だとしてもここまでする必要があるのか。それならなんだ?あ、128で豆腐屋の日か?豆腐の安売りでもしていたのか?
「言ったことなかったっけ」
妻の声で我に返る。
「なにを?」
「私のお母さん、鳥取の出身なの」
「ああ。そうなんだ」
「でね、その辺りに昔から伝わる風習で、〝うそつき祝い〟って言うものがあるの」
「え?祝うのか?うそつきを」
「そうなの。12月8日にお豆腐を食べてお祝いすると、その一年間についたうそが帳消しになる、って言い伝えがあるのよ」
つまりこれらの料理は母の教えを守った結果、ということだろう。初めて聞いた珍しい風習と、それを大切にする彼女にほっこりした気持ちになった。
「じゃあその辺の人たちはみんな12月8日に豆腐を食べるんだ」
「どうだろ。そういうのってだんだん薄れてくるものじゃない。だからうちでもあんまり食べなくなってたかも。でも忘れたころにどっさり豆腐が出てくることもあったかな」
彼女はそこで思い出し笑いをうかべつつ、
「そうそう。そんなときにはね、お父さんが勝手に告白を始めるのよ」
「告白?」
「うん。帳消しになるんだから、うそは全部ばらしてスッキリしたいって。はた迷惑な話よ。こっちはそんなもの聞きたくもないんだから。あるときなんか浮気の話まで持ち出したのよ」
「え?浮気?」
「お父さんったらお母さんにうそついて、女とお泊り旅行に行ってたって言うんだもの。びっくりしちゃった」
「え?え?そんなことして大丈夫だったの?」
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