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「それがすごいのよ。お母さんも多少は怒ったみたいだけど、うそつき祝いなんだから水に流しましょって」
「お義母さん、器、でかいね……」
そう言いつつも、俺は心の中で葛藤していた。自分もうそを告白すべきか、黙っておくべきか。彼女のお父さんが自らうそをさらけ出し、お母さんがそれを赦したように、もしかすると俺にも暗にそうしろと言っているのではないだろうか。まさか、彼女は俺がついたうそに気づいているのか?仕事で遅くなったから友達のところに泊まるといって、元カノと寝ていたことを。正直に話せば赦してやると言っているのか?
いやいや。そんな甘言に誘われ白状し、大炎上した例は嫌というほど見聞きしているじゃないか。でも、今日はうそつき祝いだぞ?だったら……。
ああ、どうしたらいいんだ……
「お義母さん、器、でかいね……」
夫はそう言うけれど、実際のところはそうじゃない。
赦したのは、お互い様だったから。
私は知っている。
母が思い出したようにうそつき祝いで大量の豆腐料理を出した理由を。
母も浮気をしていたのだ。パート先の上司や同僚など、複数の相手と。そのたび母は父にうそをついていたが、鈍感な父は全く気づいていなかった。同性の私は、母の微妙な変化には目聡く感づいていたけれど。
あの大量の豆腐料理。あれは自分のうそを帳消しにするために作られたものだった。
そして、私も。
今日これだけの豆腐料理を作ったのは私のためだ。それでうそが帳消しになるからと言って、父のように真実を告白するつもりは毛頭ない。幸い夫の血液型はB型だ。将来DNA鑑定でもしない限りバレることはないだろう。
夫は目を泳がせたまま黙り込んでいる。あれは何か言いたいことがあるけど言い出せないときの癖だ。たぶん何か隠し事でもあるのだろうが、それを私に話す必要はない。聞いてしまえば私も言わなければならなくなるのだから。
「さあ、いただきましょ」
豆腐ハンバーグに箸をつけたところで、お腹の子が胎動した。
「あ、動いた」
席を立った夫が私の前に跪き、腹部に耳を当て、本当だと喜びの声をあげる。
言えない。絶対に。
お腹の赤ちゃんが夫の子じゃないなんて。
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