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「ねぇ裕二~ぃ、早く行こう? この辺人喰いオババが出るってもっぱらの噂じゃ~ん」
「もっぱらって何だ~?」
「知っらな~い」
頭悪っ‼
あたしはすごく急いでいた。ブラック企業で帰宅はほとんど今日みたいに真夜中で。早く帰って可能な限り眠りたい。
「ンなもんいるわきゃねぇだろ~?」
「え~でも亜季絵こわい~」
「大丈夫だって。そん時はこの俺が守ってやるから~」
「ほんとに~? 絶対だよ~」
全っ然怖そうじゃないよね?
どうでもいいけど狭い道横並びで歩かないでくれる!?
ごほんと咳払いをする。
「あ、ごめんなさ~い」
甘ったるい声で振り返った女の子はハッとしてこちらを見つめる。
20歳ぐらいか?
(まるッ!)
聞こえてんだよ。あたしの体型がいつあんたらに迷惑をかけた?
しばらく一本道だし、正直お腹も減っているから余計にイライラする。
なんとか我慢できるうちに、あそこの角まで、角まで‼
あたしは最速で歩き出した。
「ねぇ~それより亜季絵お腹空いた~」
「もう少~し待ってろよ~。家に着いたら美味いもん食わしてやっからな~」
「え~ホントに~?」
は、や、くどこかに行ってくれ~~~~あたしの理性があるうちに。
こいつら意外に足早いし……ってこいつら曲がんないの!?
ダメだ!
あたしは鞄から包丁を取り出した。
──お前らが悪いんだよ?
「うそ、人喰いオババって……」
バカップルはやっと黙り、暫くポカンとこちらを見ていた。
「ほい! 亜、季、絵あ~ん」
「裕二優し~い。いただきま~す。やっぱ美味し~い」
「だろ~?」
「半分こしよ? はいあ~ん」
「うま!」
「でもなんでオババって言われるんだろ? 亜季絵心外~」
「このおばはんのせいだったンじゃね?」
「だよね~」
「ホントはこんなにカワイイのにな~」
「ヤダもうバカん。でも今回はいいことしたね」
「な~。こういう奴ばっか通ってくれりゃ俺らも楽でいいのにな~」
2匹の妖怪は相変わらずイチャコラしながら夜の闇に消えた。
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