ホラ吹きのアムール

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ある町でごく一部地域の、ある本による噂話が話題になっていた。 「ホラ吹きのアムール」ていう本がある、その本の内容がさ 平和な村に住んでいたアムールという少年がいて、彼は日常茶飯事に村の人々にホラを吹いて迷惑行為をしていたんだけど、ある日、村の住人に敵国のスパイがトランシーバー らしきものを使ってこの村に大砲を打ちに行くというやり取りをこの目で見てしまったの アムールは村中の人に避難の指示を出すけど、またホラでも吹いているだろうと思い 誰も彼の言うことを聞いてくれなかった。 しかし、アムールと同い年の女の子だけ彼のことを信じてくれたの、周りの大人たちは子供遊びに付き合ってられるか!と二人を追い払った。 二人は必死に村から逃げた。ジャングルみたいな森林を必死に駆け巡った。 そして、翌日。アムールの宣言通り村は敵国に包囲されてしまった。 女性と子供だけを生かして、男性だけは撃ち殺される。家は火に焼かれ村全体が崩壊してしまった。 一方、二人はその晩に愛し合っていた。舌を絡め合い、体を抱き寄せ幸せな時間を送っていた。 翌日になると、ジャングルみたいな森林を抜け出すことができた。 しかし、そこにあるのは焼け野原になった隣の村。村人も食料もない。二人は絶望し 一緒にあの世へ行こうと、同時に、持っていたナイフで心臓を刺して二人は天国へ旅立った。 という物語である。 この本を、誰でもいいので「凄く、幸せになれる本だよ」と嘘をついて渡せることができたら自分に幸せが訪れるという噂がある。 これから先は、何も幸せな出来事がなく平凡な生活を送っている男の物語である。 金曜の朝、明日から二日間の休日という希望を胸に会社へ出かける。 俺の名前は斎藤、普通のサラリーマンである。 この会社を務めて8年が経った、仕事には慣れてきたし給料もそこそこあるので別に転職は考えていない。むしろ、仕事は飽きていたが、新しいものを学んでいくのがめんどうくさいタイプの人間なのでこの会社のまま退職するまで働こうと考えている。 結婚はしていない、そろそろ結婚しないといけない年齢だと薄々感じてはいるが異性と話すときに変な緊張に襲われてしまう。いわゆる究極のコミュ障である。 昔から女性と関わってきた経験が少ないからか目線を合わせることも結構しんどい。 会社の二次面接では女性の面接官だったため、何とか一生懸命前を向いて取り組んだ。あの時間は俺にとって地獄のような時間だったに違いない。 コミュ障と人見知りという二つのシンボルを抱えている俺は今日も生きづらい生活を送っています! 午後八時、いつもの仕事が終わり、家に帰ろうと駅に向かう。 駅付近では飲み倒れた大学生や、路上で楽しそうに話しながら飲んでいる爺さんたちの姿をみる。その光景を見るといかに自分が孤独で寂しい人間なのかと痛感してしまう。 大学生のころに適当な人間を見つけて適当な話をして、適当に飲んでいれば友達になれたかもしれないそんな後悔を忘れたい。 自宅の最寄り駅に降りて、すぐさまコンビニに通いビールとワンカップ酒を おつまみで一番好きなカニカマも購入した。 嫌な思い出は酒を飲んで忘れよう。 店外の喫煙所前で酒とカニカマを手に持つ、最初にカニカマを頬張る、少し塩分の効いた味とすぐに口の中で溶けていく感触。 とても酒が欲しくなる。 ビールをぐびぐび飲み、またカニカマを堪能する。この時間が自分にとっては幸せな時間なのかもしれない。 ビールとワンカップ酒を飲み干しセブンスターを一本吹かす。 飲むペースが速かったせいか、気持ちいい感じに酔っていしまった。 ここから徒歩で15分、タクシー代を使うのは勿体ないと歩いて帰ることにした。 夜道を一人でふらふら歩いている最中に人と肩がぶつかった。 「おい、てめぇどこ見て歩いているんだ?」 下っ端ヤクザみたいに絡んだ。 「すみません、わざとではないんです。 お詫びとして、こちらの本を」 奇妙な男は本をスゥと渡した 「ホラ吹きのアムール」 聞いたことのない名前だ。 「この本を読むと幸せになれますよ、では。」 男はゆっくりと俺と逆方向の道を歩いて帰って行った。 手に持つと厚みがなく、重さも非常に軽い、子供向けの絵本のようだ。 タイトルにはふらふらしたゴジック体。 表紙の絵には一人の少年が笛を吹きながら誰もいない道を歩いている絵のようだ。 もちろん、後ろから通いてくる人物や動植物もいない。 これは、小さな少年アムールが孤独との闘を描いているのではないのか? アムールの立場と自分の立場を比べてみた、自分もずっと孤独で暮らしてきたし、結婚も友達もできてない。 斎藤はこの本との出会いを運命だと感じた。 アムールと俺は似ている。 「アムール!」 俺はこの本を抱きかかえて叫んだ。 すぐ近くの飼い犬に吠えられ 「うっせぇ」と変顔を見せて走り去ってやった。 お風呂と夕食を済ませて、またもやホラ吹きのアムールを手に取る。 読んでみるか。。 一枚目を開くと小さな紙が落ちてきた。 何だ? 「※注意※ この紙は捨てないでください。 この本を読み終わったら他人や友達、家族誰でもいいので 「凄く幸せになれる本だよ」と言って渡してください。 そうするとあなたに幸せが降りかかってくるかもしれません。」 と謎の言葉を述べた紙だ。 これは、先ほど出会った奇妙な男も一緒のことを言っていたな。 少し不気味な気持ち悪さを抱えつつ本を読んだ。 全然、幸せになれないじゃん。。 読み終わった瞬間に心が痛くなった。 翌日、なかなか寝付けなくて朝の11時頃に起きた。 外の天気はあいにく大雨、出がけるのもめんどくさいが公共料金の支払いが今日までなので仕方なくコンビニに行くことにした。 小さめのビニール傘を買ってしまったせいか、上から垂れてくる雨のしずくが肩を地味に濡らしていく、大きめの傘もついでに買っておこう。 不満そうな顔をした俺の前に座って泣いている少年がいた。 あまり子供は好きではないが、ここは放っておくのは大人として恥ずかしい。 仕方なく声をかけてあげよう。 「どうした?坊主」 鼻水を大量に流している少年が振り向いた 「転んじゃった。。」 小さくて細い膝からは血が流れていた。 常日頃からカバンの中には絆創膏を持ち込んでいるので少年の膝に付けてあげた。 「お母さんは??どこにいるのかな?」 「今日は、一人で本を買いに、、」 少年はスマホで写真を見せてきた。 その本はホラ吹きのアムール。 両親は仕事の都合で一緒には行けないので一人で本屋まで行くしかなったらしい。 俺はバッグの中から本を取り出して、少年に見せた。 「ホラ吹きのアムールだ!おじさんどこで手に入れたの?」 さっきまで泣いていた奴とは思えないほど元気な声で聞いてきた。 「いやー、家の中掃除してたら出てきてさ、懐かしいなって思ってね、、」 子供に印象悪い思いをさせないよう、奇妙な男に貰ったことは黙っておいた。 俺は昨日の手紙の内容を思い出した。 この少年に本を上げれば少年は喜ぶ、そして本当かどうか分からないけど自分も幸せになれる。ウィンウィンではないか? 「この本あげるよ、凄く幸せになれるから」 緊張高ぶってしまったしか不気味な声で誘い出してしまった。 少年は少し戸惑いながらも本を受け取った。 「おじさん、ありがと!」 大雨の中、笑顔で手を振る少年の姿だけ太陽のように光り輝いていた。 翌日の朝を迎えた。日曜日、最後の休日。 明日から仕事と考えるだけで憂鬱な気分になるので気分転換に買い物にでも行こうかと外に出かけた。 昨日の出来事がきっかけに今日に良いことが起きそうなことは微塵も思っていない。 ただの噂話なんだし、、 駅近くのショッピングモールにて好きなアーティストのCDと新刊の漫画を何冊か買って帰ろうと出口を目指す。 すると、出口付近にガラガラ抽選会が実施されていた。 ガラガラを回して色のついた玉を出す。出された玉の色によって景品が貰えるといったシンプルの抽選会。 一等は、、二泊三日の沖縄旅行か、、 一人だし、行く人いないから同僚の適当な人にあげるか。。 二等はマッサージチェアか、最近仕事の疲れか肩や腰が異常に凝るんだよな これを狙おう。 チャンスは三回、俺はマッサージチェアだけを目当てにガラガラを回した。 一回目は白の玉 残念賞でポケットティッシュだった。 まだ、二回チャンスはある。 二回目もポケットティッシュ。 最後の三回目。 今度は先ほどのよりも遠心力を重視するために早めに回すことにした。 なかなか出てこない。ずっと出てこない。 ガラガラ内で暴れまわってぶつかって聞こえてくる 「ザー、ザー」という声だけが聞こえてくる。 俺は回すのが疲れたか少し力を緩み始めた。 ようやく、玉が出てきた。色は金色。 一等の二泊三日の沖縄旅行が当たった。 「おめでとうございます!」 店員が鳴り響くベルの音で店内の客は一斉にこちら側へ興味を示した。 俺はじっと金の玉を眺めていた。 ※心の中※ 「えー。。二等のマッサージチェアが良かったのにーーー 一等とか一人だし、旅行とか興味ないし。 はぁ、同僚にこのチケットと引き換えになんか高級な店に奢ってもらうとするか。 チケット受け取って出口を出ようとすると 近くで泣いている女の子がいた。その近くにも母親らしき人も 「沖縄、、行きたかった。。海とか、シークーワーサ。。ぐすん。」 「もう、沖縄は今度行こうね、はい、帰るよ。」 母親が強引に女の子の手を引っ張る。女の子は大きな抵抗もしないでただ下を向いて 黙って泣いていた。 その姿を見て見ぬ振りをすることは不可能だった。 すぐさま、俺は女の子のもとへ駆けつけた。 「いらないんで、あげますよ」 拒んでいる母親に対して俺は無理やりチケットを握らせて反対方向へ走っていた。 「おじさん、ありがと!」 手を振りながら大きな声で言う女の子、俺も同じように手を振りかえす 俺は子供の涙に弱いかもしれない。もしも、奥さんができて子供が生まれたら涙で何でも許してしまうのではないかと自分の弱いところを知った。 この後は食っては寝て、録画してあったテレビ番組を見て 何も幸せなことがないまま翌日の朝になってしまった。 これから辛い五日間が始まるのか。 憂鬱な気分で電車に乗り、会社に就いた。 朝の連絡事項で部長から 「今日は小学校の生徒たちが職場見学に来るそうだ、インタビューとかして来るらしいのでそれに答えるよう学校の先生に頼まれた。 皆は普段通り仕事すればいいからってことでよろしく。」 ほへー、最近の小学校は職場見学もやっているんだな。 俺が小学生の頃は山のほうへ行って虫取ったり、野草を食べてたりしたな、懐かしいな 午後の時間帯に小学生がやってきた。 一人一人、鉛筆とメモを用意してまるで就職活動のセミナーに参加している就活生のようにちゃんとしている。 どんな子がいるか、一通り目を通すと 「んん?あの子たちは!」 そこには、土曜日本を濡らして泣いていた男の子と 日曜日に沖縄に行けなくて泣いていた女の子がいた。二人そろって、カップルなのかな? インタビューの時間になると二人とも俺のほうへ駆けつけてきた 「この前はありがとうございます!」 お礼のタイミングもばっちり本当にカップルなのでは 「いえいえ、それよりも君たちは付き合っているの?」 20代後半の男が小学生対してする質問するものではないと言った後に思った。 二人は恥ずかしながらコクッと頷いた。 負けた。。小学生に負けました。 グッと泣きそうな気持ちを抑えながらもインタビューに答えた。 男の子が言った。 「俺、おじさんみたいなかっこよくて、優しい人になる!」 女の子が言う 「私も!」 俺はこの子たちの未来を応援するように 「そうか!頑張れよ!」と思い切りの笑顔を見せてやった。 なぁ、ホラ吹きのアムール お前の幸せは嘘なんかじゃないよな。 俺は遠くの空にいるアムールに問いかけた。
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