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果たしてここは本当に都心だろうか。公園から並木道が続き、ひらけた視界の先にそれはあった。
流石は大企業の社長の居住場所だ。日に当たると光沢がはっきりと見て取れる乳白色のマンションは全部で125邸ある。入口で住人に連絡を入れるかキーコードを入力しないとエントランスに続く自動ドアすら開かない。セキュリティーも厳重だ。恐ろしく高級なマンションだということはひと目見ただけでもすぐに判る。
七緒は三谷からあらかじめ言い渡されていたキーコードを入力してエントランスを抜けた。
(たしか社長の部屋は502号室だったっけ……)
七緒は見慣れない高級マンションに臆しながら小さな手を引き、エレベーターに入った。
四角い箱の中では長い沈黙が続く。
そういえば、と。七緒は三谷の子供、皐月を迎えに行ってからというもの、名乗ったのは名前と三谷の知り合いということだけで会話らしい会話すらしていなかったことに気が付いた。
いや、それどころか目もろくに合わせていないではないか。七緒ははっとして皐月を見やる。
細い腕に小さな体。漆黒の髪は父親譲りだろう、艶やかだ。目は大きいが俯き加減で一重なのか二重なのか判らない。細い腕に小さな体は強張っている。見ず知らずの大人が迎えに来たのだ。怖がらせただろうかと思うものの、それでも泣くことも叫ぶこともない。沈黙を守っているのは何故なのか。
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