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そろそろ閉園の時間だ。
そっと空を見上げれば、オレンジだった夕焼けが少しずつ濃さを増している。子供たちの笑い声で溢れていた園庭からはひとつ、またひとつと消えていく。
視線を空から門に戻せば――。
荘真さんの彼女さんが見えた。
――ああ、今日は最悪だ。荘真さんも一緒にいる。
「あ、おとうさん。おねいちゃんっ!!」
ひまりちゃんは満面の笑顔をふたりに向かって小さな歩幅で駆けていく。
三人一緒にいる姿を見ると本当の家族のようだ。
同性だし美青年っていうわけでもない僕じゃ、あんなふうになれない。
彼女さんに勝負を挑むことすらできない。
苦しいな。
失恋ってこんなに辛いんだ。
きりきりと胸に痛みが走る。
まずい。
涙、出そう……。
でも僕は保育士だ。感傷に浸っている暇なんてない。
「せんせ、さよならっ」
ひまりちゃんを真ん中に、仲良く手を繋いで家に帰って行く三人に、みんなと同じように笑顔で、『また明日』と手を振った。必死に涙を引っ込めて――……。
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