1.ずぶぬれ毛玉にひまわりの傘

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 バラエティやトーク番組には番宣でもない限りなかなか出演しないから、渡八千代の演技抜きにした素の姿がメディアで発信されることはけっこう稀だ。  その数少ない出演時間ですら、こうして「理想の俳優像」を着実に育てていく。  世間は顔やスキルなどに注目が行きがちだが、同じ業界人の端くれとして渡八千代の良いところがどこかといえば、誰にでも分け隔てなく接する朗らかさと、謙虚な姿勢だと思う。  視聴者の中には「猫かぶってる」「ぜったい腹黒い」と決めつけてるひともいるし、もしかしたら本当はそうなのかもしれないけれど、だからって別にこの先本人と交流するわけでもないんだから、そこまで邪推する必要はないんじゃねえかなあ、というのが一意見だ。  そもそも、渡八千代の私生活がまったく想像できない。そういう意味では、確かに「人外」っぽい。  ディスプレイの向こう側できらきらと微笑む彼は、同じ業界に踏み入れてなお、どこまでも遠い存在なのだ。 「何食ったらあんなかっこよくなれんの? オーラが違い過ぎる……」  " …… " 「羨ましいかっつったら、微妙だけど」  " ……… " 「俺がこれまでしたこともない苦労とか、いっぱいしてきてんだろうしなあ……。ん? 寝たかな?」  オートで撫で続けていた毛並みから手を離すと、腹のあたりが膨らんでは萎んでいる。  たまにピクリと目蓋や前足が痙攣するのは、まだ寒いからだろうか。思い出したように、己の身体もぶるりと震える。そういえば未だ半裸だったことを思い出す。時計を見れば10時35分。ボトムはほとんど乾いていたものの、身体は芯から冷えている。  ポメラニアンを慎重に膝から下ろして、簡単にシャワーを浴び、寝支度を整え、早々に就寝することにした。もちろん腕にはぽめを抱いたまま。 「おまえ、早く飼い主に会えるといいなあ……」  これだけキレイなポメラニアンなのだ、飼い主は今頃必死になって行方を捜しているに違いない。  明日は運良くお休みだから、まずはあの通り付近の交番に行って、届けを出して、しばらく見つからなければ。  とろとろとした眠りの淵で、考える。  仕事、不規則だから、ここでは飼えない。里親を探すか、最悪、実家に相談するか。あんまり、したくないけれど……つーかねむ…───。  
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