1.ずぶぬれ毛玉にひまわりの傘

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 もしかしたら、犬の飼い主が根性で犬の居所を特定して、家主が寝てるあいだに怒り狂って部屋を荒らしたのかもしれない。起きなかった自分も大概だが、もしそうなら叩き起こして言い訳くらいさせてほしかった。  向こうからすれば、泥棒はこちらの方だ。  そんな罪悪感もあり、警察にはいけなかった。もとを辿れば、こういう事態を警戒すべき職業柄のくせに一晩鍵を開けっ放しにした自分に過失があるため、さすがに鍵の付け替えはしたが、それ以上はなるべく大事にはしなかった。  昨晩の様子を案じてメッセージをくれた仲間には相談しようか悩んだけど、そうなると無理矢理引っ越しを命じられそうだったので、心の中ですまんと謝りながら「心配してくれてありがとう」と送った。1分後、「心配なんかしてねえ」と即返信が来た。  後から考えれば、この対応の杜撰さについては、どれだけ事態を楽観視してんだと呆れられてもしょうがない。  そんな出来事があっても、日常のサイクルは破綻することなく回る。  まだ駆け出しの自分たちは、ひたすら上を目指すしか道はないのだ。凄いひとの実績だけを羨んで、見えない努力を推し量れないような、恥知らずにはなりたくない。  へっちゃらだと思い込んでいれば、数日後には正しくへっちゃらになる。時には公式SNSの更新で貰えるファンからの反応、時には覚えたてのキーボードの練習、時にはスタバの新メニュー。恋未満の真新しい擦り傷も、救った小さないのちの温かさも、荒らされた部屋の床に残っていた、自分のそれより大きい気がする足跡の謎も。  ありふれた日々に押し流されて忘れてゆく。はず、だった。 *
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