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「宮古蛍。××県出身の21歳。三人組アイドルユニット『Phiz's《フィズ》』のメンバー。美容専門学校の学園祭で組んだバンドがたまたま来ていた芸能関係者の目にとまって、その日のうちにスカウト。メインボーカルで、ダンスも得意。ファンからの印象は『天真爛漫』な『お馬鹿キャラ』」
「知ってるというより……調べたんスね…」
「うん。そして、『器用貧乏』で、『ぱっとしない』。目立ったアンチはいないけど、まだ自己確立の真っ最中ってところかな?」
「サラッと俺の地雷踏むし…」
「あ、まさか普段エゴサとかしないタイプ? ごめんごめん」
謝意をまったく感じられない調子で、渡八千代はおざなりに片手で「ごめん」のポーズを作った。
数日前うっかり目にしてしまった呟きとほぼ同じ内容。あまり気にしないようにしているとはいえ、宮古自身も自覚があっただけにまあ刺さった。
数日前の自分自身に言いたい。もしかしなくても彼は、テレビでは『猫かぶってる』し、きっと『腹も黒い』。渡八千代に夢を見ていたわけではないけれど、あまりにもギャップがひどくて、やはりドッキリか、すごくそっくりさんな双子の存在を疑ってしまう。
「でも、じゃあ、尚更なんで名乗り出たんスか? わざわざこうして訪ねてこなかったら、俺、フツーに不法侵入者の仕業だと思ってあの日のことも処理してましたよ?」
「そしたら借りた服とお金返せないから」
「エッッうっそ律儀……」
「そこまで驚くこと……?」
はい、と渡されたのは宮古でも知っている海外ブランドの洒落たトランクケース。促されるままトランクを開けると、あの日盗られていたはずの服一式と、ピン札が一枚。
あの日財布から拝借したという諭吉は、100人の諭吉とは別枠らしい。ちなみにタク代として使ったらしい。服だってきっちりクリーニングまでしてくれてることが一目でわかったし、変なところでやっぱり律儀だと思った。
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