1.ずぶぬれ毛玉にひまわりの傘

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 ただ、こちらは端くれとはいえ、同じ芸能界。ポメなんとかという病気のことは宮古はよく知らないけど、もしバレたら記者が面白おかしく取り上げるだろうなあというのは想像に容易い。  服を届けるためだけにしては、抱えるデメリットが大きすぎやしないだろうか。 「まあそれが理由の二割として」 「二割か。他にも?」 「首輪の回収。まだ取ってあるんでしょ?」 「あ、あれか。わかるもんなんスね」 「発信器埋め込んであっからね」 「おー、なるほど」 「まあ新しく作れないこともないけど、ポメガバース患者用のオーダーメイドだから、けっこう時間かかるのね。申請するのも手間だし、破損ならまだしも紛失なら、じゃあどこにあるのって話になるじゃん? そしたら自動的に、外でポメラニアン化して部外者に拾われたことがバレるし。そっちの方がめんどくさい」  いろいろと大変な事情があるらしいことは、状況を飲み込めないなりにもなんとなく察した。  ここは、無闇に踏み込まない方が吉、だ。  荒れた部屋を目の当たりにしたあの日の朝は、せめて叩き起こして事情を説明させてほしかった、なんて思ってたけど、むしろ起こされなくてよかった。起き抜けに渡八千代がいたら、正直泥棒と鉢合わせるより動転していた自信がある。  とりあえず、彼がこうしてわざわざ再訪した理由はわかったので、ちょっと待ってて、と立ち上がり、アクセサリーを入れた戸棚から目当ての首輪を取り出す。  あの晩は、ちゃっかりポケットにしまってたのだ。部屋中を探しまくったって見つからなかったのも無理はない。  
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