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はい、と首輪を持ち主に手渡すと、何故だか複雑そうな顔で受け取られた。
男性用でも女性用でも使えそうなチョーカーは、渡八千代の腕にくるりと巻かれて、あっという間に腕輪に早変わりする。どうやら伸縮自在らしい。
「というか、随分飲み込みがいいけど、証拠見せろとか言わないんだ?」
「え、うん。信じましたよ」
「……………本当に信じたの? 僕が言うのもなんだけど、頭大丈夫?」
「渡さんって、友達少ないでしょ」
「うん。すごい、よくわかったね?」
「わかるわ……」
わかるわ……ともう一度脳内で噛み締めるように宮古は呟く。
ひとの性格とか、どうこう言うつもりは全然ないけれど、先に頭の心配をしてきたのはあっちだ。わりと失礼なこと言ってる自覚はある。でも本人はただ驚いたように目をぱちぱちさせているだけなので、嫌味が通じないか、あんまり気にしないひとなんだなあと判断することにした。
こうして律儀に事情を説明してくれたんだし、部屋を荒らされたことへの怒りはもうないので、ひとまず一件落着だ。
今後会う機会もそうそうないだろうし、渡八千代のヒミツやテレビと素のギャップについては、墓まで持っていくことにしようと思う。
「わざわざ話してくれてありがとうございました。服も、届けてくれて助かりました。それに、あの時のポメラニアンが無事だったと知れてホッとしました。首輪だって返したし、もちろん口止め料がなくたって口外しないから、そこは安心してください。用事はこれでおしまいでいいんスよね?」
「いや、本題はここからだから」
「……まだ、なんかあんの?」
「オマエ、あんなに僕のこと褒めちぎってたくせに、なかなかイヤそうな反応するよね…」
え、もうなくない……?
わりと本気でわからなくて眉を寄せると、その反応を見て嫌がってると思った渡八千代がちょっぴり苦い顔をする。
そんな渋面すら綺麗な顔でやられると心臓が不規則に跳ねる。というより、ずっと跳ねてる。なにせ相手は老若男女問わず見惚れさせる人智を超えた美貌の男だ。だからテキパキはなしを畳みにかかってお暇してもらおうと思ってたのに、まだ、何かあるらしい。
「えっと……なンスか?」
「僕と契約して、飼い主になってよ」
地雷、どころのはなしではなかった。この日一番の核ミサイルが脳天に直撃した。
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