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以後、彼女とは常識的な範囲内で、メッセージや電話のやり取りをした。
彼女は絶妙な連絡頻度を心得ている女性で、こちらの仕事柄マメに返事できないことや気軽に会えないことをきちんと考慮し、けれど男性が思わずもっと話していたいと求めたくなるような言葉の選び方をする。
出会い方は少々ドラマチックではあったけれど、自分のなかでそれがだんだん魅力へとすり替わった。ちょっとした違和感も、不信感も、自分の都合が良い方へ改竄してみたりする。人はそれを盲目と呼ぶ。
恋に、したいなと思った。その矢先だった。
『悪ィこと言わねえから、そいつはやめとけ』
『え……?』
『若い芸能人に近づいて写真撮らせて記事書かせて、その汚い金でメシ食ってるような女だ。……俺も一度、誘われた。断ったけどな』
『えぇ、っと……それ、ちなみに、他人の空似だったりは…』
『俺が、確証もねぇのにこんなこと言うと思うか』
目を背けるなと言わんばかりの強い口調と眼力の前に、観念した。
メンバーのひとりとの宅飲み中、送ってもらった彼女の写真を見せ、いずれは恋人になれたらなあ、なんて、鼻の下をこすりながら仲間内だけに打ち明けた、直後に投下された真実。手から滑り落ちたチューハイの缶が、中身を微量に零しながらコロコロと静かに床を転がり、音もなくひとりでに止まる。
蓋を開ければなんてことはない。
出会いは運命でもなんでもなかった。仕組まれていたことだった。
できれば、嘘であってほしかった。けれど、素直ではないながらも根は友人想いな仲間からの忠告を、宮古は嘘だとは思えなかった。そもそも、彼を疑ったことすらなかった。
ここで縁を切っちまえと詰め寄る友人の勢いに圧されるがまま、その場で彼女に電話をかけた。
真偽を問いただした結果は、言わずもがな。
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