1.ずぶぬれ毛玉にひまわりの傘

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 東京都・23区。  ごく一般的な5階建てアパートの303号室に、抱えた毛玉ごと滑り込んだ。雨水と汗が混じる水滴が目に入らないよう髪を掻き上げ、スニーカーを雑に脱ぎ散らかす。  まずは靴下と上の服を脱ぎ、1SKの部屋の電気とテレビ、そして暖房を稼働させた。  その足で脱衣所兼洗面所に犬を連れて行って、洗面台に風呂桶を置き、さらにそこに犬を置いた。水分を吸ってぺったんこになった毛束を掬いあげる。  " くぅ、くきゅぅ " 「あーらら、だいぶ泥とか絡まってんなあ…」  " キュゥゥン… " 「ん、よし。ちと寒いだろうけど、も少し我慢してな」  チョーカータイプの首輪を一度外して、洗面台のシャワーのぬるま湯で流しながら犬の体毛を手早く梳きほぐした。ただでさえ濡れて体力が削られているのだ、できるだけ時間はかけず、泥汚れを落としていく。  三十秒ほどでシャワーを止めて、犬をバスタオルで包んで軽く水気を拭き取ったあと、濡れた足が次に向かったのは寝室兼リビングだ。今回宅飲みに参加できなかったもう一人のメンバーのツテで、安い家賃のわりにはそれほど手狭でもなく、駅近で、何より防音なのが良い。  ベッドの上に座り、膝の上に犬を置いて、すぐにドライヤーをオンにした。犬が怯えないように、音はできるだけ小さく、風量も絞り、温風を犬の身体にあてていく。  最初は小刻みにふるえていた身体も、てのひらでゆっくり撫で、あたたかさを取り戻すうちに、だんだんと正常なリズムに戻っていく。熱が一点に集中しないようドライヤーを忙しなく動かしながら、丁寧にブローした。  柔らかさを取り戻したしっぽが、ふわりと満足そうに揺れる。 「おぉ……お前、めちゃくちゃ美人さんだなぁ…」  人語を理解しているわけでもあるまいに、犬が誇らしそうにゴロゴロと喉を鳴らす。猫か?  先ほどまでみすぼらしさすら漂っていたはずの濡れ犬は、なんということでしょう、それはそれは愛くるしいポメラニアンに変貌したではありませんか。    
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