1.ずぶぬれ毛玉にひまわりの傘

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 ビフォーでアフター的なピアノの旋律をBGMに背負った犬が、「きゅうん」と一声、世界の愛らしさをありったけ込めて鳴く。連動してこちらの胸まできゅうんと鳴った。  思わず「かわいい! 天才!」だの「世界有形遺産」だのと褒めそやす。まあ、3%分は酔っていたもので。  太陽光を受けて白く輝く麦畑のような、彩度が低く色素の薄い柔らかなしろがねの体毛は、LEDの光のもとでツヤツヤと輝く。白や灰色や茶色のポメラニアンはたびたびお見かけするけれど、この色艶の上品さときたら、なかなかお目にかかれないのではなかろうか。ひとみの色に至っては、もっと珍しい。 (なぁんか……既視感っつーの?)  どこかで見た色彩の組み合わせだなあ、とぼんやり見つめ返していたら、テレビから唐突に拍手の音が聞こえた。  つられて顔を上げると、画面上には大きく番組のロゴ。時刻は平日の午後10時ジャスト。中堅芸人をレギュラーに置いたトーク番組がたった今始まったらしい。時間があれば、毎週欠かさずリアタイしている番組だ。さすが芸人さんとあって、トークが上手い。昔はただ面白くて眺めていただけだったけど、今ではちょっとした勉強のつもりで見ている。  画面の右上には、「本日のゲストは、話題沸騰中のあの二人!!」とのテロップ。芸人さんたちの軽快なオープニングトークから始まり、場の空気が暖まった頃合いに、満を辞してゲストが登場。  いつもとお馴染みの流れだが、いつもと少し違うと言えば、スタジオ入りしたお客さんの、尋常じゃない黄色い声だった。 (───あ。(わたり)八千代(やちよ)だ。)  登場したゲストは二人の男女だったが、女優さんには申し訳ないけれど、その隣に立つ男のひとはそこにいるだけで自然とひとの目を吸い寄せる、あまりにも規格外の人間だった。
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