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宮古の父は少々と言わず頭が硬いひとで、出来の悪い長男には家業を継ぐことを強いた。それに抗い、飛び出すように上京した宮古のことを、きっとあまり良く思っていない。
たまに連絡を取る母には芸能事務所で働いていると伝えはしたが、父には宮古からは言っていない。これまで目立っていなかった芸能活動ならまだしも、ドラマ出演となれば、目に触れる可能性は上がるかもしれない。
「ドラマのことは言ってない。まあ、父さんドラマとか興味ないひとだし、もし俺が映ってたとしても気づかないんじゃね?」
「…お袋さんは喜ぶと思うぞ」
「だろーね。あ、お前、母さんから今度連絡来たら代わって。『洋介くんが息子の面倒を見てくれるなら安心ね』って言われたよこの前。お前の声聴きたがってる」
「お前からは連絡しないのな」
「……」
「何に躊躇している」
だからお前は察しが良すぎるんだよ。
そう零したいのを我慢して、ぱち、と目を開けると、枕に頬杖をついた穂高が宮古を見下ろしていた。
穂高の祖父母は他界している。
穂高は祖父母にうんと可愛がられ、そして穂高も祖父母を実の親のように愛していた。
穂高の実父は社長で、交わされる会話は親子というより社長と社員のソレだ。穂高が社長を父と呼ぶ場面を、宮古は見たことがない。
意地を張るのもいいが、連絡が通じるうちに話せることは話しておけよ、と穂高に嗜められたのも随分前だ。
その通りだとは思うのだけれど。
そもそも、美容師になりたいと言った宮古に反対していたひとが、美容師を中途半端に諦めて今度は芸能人になったと知ればどういう態度を取るだろうかと、想像するのも嫌だった。
「……答えたくねェなら、別にいいけど」
ぽん、と腰のあたりを叩かれ、穂高はゴロリと寝返りを打った。十数年前とは見違えた、宮古より筋肉質な背中。なんでも受け止めてくれる優しい背中だ。
罪悪感もあるのだろう。穂高は、宮古を芸能界に誘った張本人だから。
巻き込んだ、とでも思っているかもしれない。
宮古からすれば、感謝してもし足りないというのに。
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