3.その男、本職につき

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 午後9時30分。  雨風はますます酷くなっている。 (寝れねーし……)  ピッ。ガコン。自動販売機の取り出し口から出てきたスポーツドリンクのキャップを開けて、ひとくち飲む。  眠れない。布団に潜ってすぐにわかった。身体は疲れているはずなのに頭はしっかり起きている。  渡の部屋に泊まるときは、色々考えさせられているわりにはぐっすり熟睡できているというのに、今夜は何が違うというのだろう。  はあ、と深く息を吐き、冷たい壁に背中をつける。せめて青八木を起こさぬようこっそり部屋を抜け出してきてみたはいいが、気晴らしにもなりはしない。  どんなにこちらが気を揉んだところで、どうせ、翌朝起きたら、けろっとした渡と顔を合わせるのがオチだ。そして、眠れなかった宮古を見咎めて呆れた顔をされるに決まっている。  『体調管理は資本でしょ。何やってんの』『オマエが僕の心配? 100億年早いんだけど』。宮古を詰る渡の声がいとも簡単に想像できて、不思議なことに少しだけ胸がスッとした。  可笑しなはなしだ。自分が怒られる未来を想像して、安心しているというのだから。  なんにせよいつまでもブラブラと部屋の外を歩くわけにはいかない。  エレベーターに再び乗り、6階で降りた。602号室。記憶した部屋番号が書かれたドアまで極力足音を立てずに向かい、ドアノブに手をかける。  ガチャン。不穏な音がした。 「あ」  ガチャン。もう一度やっても、変化はない。  一瞬ですべてを理解し、サー…、と全身から血の気が引いた。 「……か、鍵……」  すっかりうっかり忘れていた。  ちょっとそこまで飲み物を買いに行くだけだからと、いつもの感覚でお財布代わりの携帯だけ持っていって、ルームキーを忘れていた。  初めてホテルに泊まったでわけでもなく、その時もルームキーは肌身離さず意識的に持ち歩いていたのに、何故よりにもよって今日なのだ。自分の馬鹿さ加減に呆然自失として、ガックリとその場に蹲み込んだ。自分で自分に一番驚いている。  
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