3.その男、本職につき

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 こんな素人以前の初歩的ミスで風邪でも引こうものなら大目玉を食らう。渡に呆れられるだけじゃ済まない。 (どうすっか……)  途方に暮れていても何も始まらない。  ドアを挟んだ向こうに青八木が寝ているのだ。ノックし続ければ起きるかもしれない。しかしあまりノックし過ぎては音に気付いたホテル従業員などに不審に思われるかもしれない。  ならば電話だ。それも雷雨の音のせいなどで気づかれなかったら、恥を忍んで岸や男性スタッフにヘルプ要請するしかない。この時間帯なら男性スタッフはまだ起きている可能性が高いし、スタッフともよく交流している宮古なら、おっちょこちょいだと笑われたとしても、追い返したりはしないだろう。  もし不運にも全員寝ていたとしたら、最終手段としてホテルのフロントに相談する。芸能人の宮古は顔も割れているし、不審には思われないはずだ。最悪、自腹を切って一室借りてもいい。  思い立ったらすぐ行動。  メッセージアプリを立ち上げ、1秒も惜しいとばかりに暗証番号を高速タップした。  トーク画面の一覧。  青八木の名前を見つけたと同時に、その下にある名前で指が止まる。敢えて選択肢から除外していた共演者の名前。  そして左手が握るのは、冷えたスポーツドリンク。 「あー……もう」  まどろっこしいことばかり考える自分の思考へ、悪態をついた。  心配なのは心配で、だからどうしたというのだ。  向こうにとってはきっとお節介だとか、他人に気を遣えるほど自分は成熟しているのかだとか、ごちゃごちゃ言い訳したところで結局は、また拒絶されるのが嫌なのだ。  もしも青八木が宮古の存在に気づいて部屋に入れたとしても、どうせ宮古は渡のことが気になって今夜は眠れない。そうなるくらいならば。  本気で拒絶されたら、その時はすぐに引き下がろう。  運良く一目顔が見れたとしたら、それでもやっぱりすぐ引き返そう。 『渡さん、今大丈夫ですか』 『鍵持たずに部屋の外に出ちゃって』  勢いに任せてぽんぽんとメッセージを送った。  直後、深く考えず送った文面を読み返して、じわじわと後悔が生まれた。  
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