3.その男、本職につき

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 なんだこれ。嘘偽りのない事実で間違いないのだが、なんだか部屋に押しかけるための常套手段みたいな遣り口だ。誓ってわざとやったわけではないけれど、一度冷静になるとダメだった。  すぐに送信取消する。  もっと、せめてもっとマシな言い方はないのか。渡が「宮古に心配されている」と察さないような、気の利いた口実は。  口実作りを自覚している時点でだいぶ手遅れだが、悩む宮古は気付かない。  そもそも、送信取消の方が却って怪しい。  そこにようやく気づいて宮古の気持ちが萎えかけたところで、メッセージの受信が一件。軽快な受信音と細かく震えたアイフォンの振動で、その場に蹲る宮古までビクリと震えた。 『ひとり?』  送信取消、したはずなのに。  “メッセージの送信を取り消しました”という表示のすぐ下に、こちらの状況を問う渡からの簡潔な質問。  たまたま向こうも携帯を見ていて、ポップアップに表示された宮古のメッセージに気づいたのだろう。そして宮古が文章を打ち直す前に、こんなに早く返事をくれた。  世間の一部が、どんなに彼を、『腹黒』だの『猫被り』だのと好き勝手に言ったって。  周りの誰かが、彼を『周囲を見下している』と、思っていたところで。  世間一般的な『仲良し』には当てはまらなくとも。本当は信用されていなくとも。何度呆れられても、厳しいことを言われても、宮古はもう知っているのだ。  渡がちゃんと、優しいことを。  この状況下の宮古を見放すようなひとではないことを。 『ひとりです』  考えたくないのに、考えている。  この雨がいけないのだ。あのポメラニアンを拾った、あの雨夜を思い出させる、ずぶ濡れのプラチナブロンドがいけない。  渡自身はあんなにも凄い大人なのに、庇護対象の子犬姿と一度重ねてしまえば、もう。 『816』  きびすを返し、上階を指すエレベーターへと乗り込む。  午後9時40分。  驟雨はまだまだ終わらない。  
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