1.ずぶぬれ毛玉にひまわりの傘

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 テレビではひな壇に並べられた椅子に座る渡八千代と、同じくゲストの女優がレギュラーメンバーに囲まれ、朗らかに受け答えしている。  時々互いに目を合わせて、渡八千代は優しく微笑みかけ、女優さんは嬉し恥ずかしそうな反応を見せていた。  確かにある意味、”話題沸騰中”というテロップは間違いじゃない。今回の出演は近々公開間近の映画の番宣目的のとことだが、どちらも妙齢の男女、最近ではプライベートでも親密との噂が絶えないらしい。  有名税というか、見てくれが凄まじいほど整っているだけに主に女性絡みでへんな異名もついて回ってるが、キャリア=ほぼ年齢とあって、宮古から見た渡八千代は昔から比較的クリーンな印象がある。  といってもゴシップは宮古もあまり興味がないので、深くは知らない。  ポメラニアンをよしこよしこと撫でながら、私生活やら趣味やらのトークをぼんやり眺めること数十分。話題は移り、撮影現場での様子が掘り下げられはじめた。  今回彼らが出演する映画は、普通の女子大学生と、編入してきた他国の訳あり皇子の格の差恋愛を描いた少女漫画の実写化らしい。 『渡くん、恋愛映画に出るのけっこう久々なんじゃない?』 『そうですね、二年ぶりくらいでしょうか。なんだか新鮮味すらありましたよ。最近は人外役ばかりでしたので』 『人外(笑)! 確かにハマり役かも!』 『なんていうかねえ、数千年単位で生きてそうな貫禄があんだよね』 『ハハ、何故かたびたび言われます、それ。だから今回、この歳にもなって学生役のオファーがくるとは思ってもみませんでした』 『いや〜、渡くんはいくつになっても女子の永遠の憧れだから』 『いえそんな。僕の代わりはいくらでもいますよ』 『謙虚すぎていっそ腹立つ〜〜!』  オーバーに悔しがる芸人さんのリアクションで、客席からドッと笑いが起きる。渡八千代は出演者ひとりひとりの絡みに丁寧に対応し、ボケを拾い、自分からも冗談を飛ばし、ゲスト側なのに上手く話を回していた。  今度は女優さんへスポットが向けられ、次々と質問を飛ばす男性芸人たちと、さりげなくフォローする渡八千代。  壁にゴンと後頭部を預け、低い天井を仰いだ。ふぅーーー、と長く息を吐く。ぽめは膝の上でじっと動かず丸まっていた。 「あー……うん。かっけー」  かっこいい。  見れば見るほど、その一言に尽きた。  自分が彼の立場だったら、絶対に、天狗になっている。    
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