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目をぱちぱちと瞬かせてどうにかこうにかやり過ごそうとしていれば、バサ、と掛け布団が退けられた。
ぎょっとして下を、いや上を見ると、上半身を晒した人間体の渡八千代がそこにはいた。
暗闇に随分と馴染んだ目は、宮古の腰のあたりを跨いで膝立ちになる渡の、その水晶玉のひとみがじっとこちらを見据えていることをはっきりと視認してしまう。ほど近い距離で、目と目が合っている。
慌てて、すぐさま顔を両腕で覆った。
「あーあ、やっぱり、泣いてやんの」
「………こういうときって、気づかないフリしてそっとしておくのが、イイ男の条件ってやつなんじゃないでしょーか……」
「条件をクリアしていようがしていまいがイイ男もいればワルイ男もいっけど」
「う、るさい、今、フルチンのくせに」
「ちゃんと隠してるっつーの。それとも見たかった? えっち」
「ほんっっとに、くちが減らないなあんた!!」
「減らず口はお互い様じゃない?」
なんだこの、復活の早さは。
両腕の袖でごしごしとさりげなく目元を拭いながら、なんとか声を絞り出して応戦する。
いつも通りの渡が戻ってきてくれて、これまで通りの関係性が続けられそうなことに宮古がホッとしているなんて、絶対に気づかせてなんかやるものか。
「腕、じゃま」
「、っあ、タイム!」
「タイム禁止」
それにしたって、傍若無人だ。
さっきまでのしおらしさは一体どこへ行った。足して2で割れないのか。
脳内でどれだけ悪態をついても渡は当然ながらタイムを受け入れてくれず、両手首を取られ、ぐぐ、と頭上に持っていかれた。
女の子でもない宮古からすれば、この体勢はひどい嫌がらせである。さっきオブラートに包んで言うはずだった切実な回避希望案件を他でもない渡に遮られてしまったせいで、今まさにベッドに磔にされている。
「きゃあ」だの、「サイテー!」だの、ふざけ倒すためのリアクションもできたはずなのに、ここで咄嗟にくちを噤んでしまったのは、不可抗力だった。
渡を直視したのが、敗因だった。
渡の下半身は本人の申告どおりちゃんと掛け布団で隠されていたが、さっきもチラリと見てしまった芸術的な逆三角形の上半身と、美の化身のようなかんばせが、手を伸ばせばすぐ届く距離に。白い裸体の首元に嵌められた首輪のようなチョーカーが、殊更背徳的に見えた。
ガチンコの睨めっこに耐えきれず、三秒で負けを認めた。サ、と首を背けて目を逸らす。
「……」
「急に減ったね。口数」
「……うっ」
「へえ。これまでこの僕を相手に、平気そうな顔で何度も添い寝してきたくせに……こういうのには、慣れていないんだ?」
「く、悔しいい……」
ぐす、と声に泣きが入る。
頬が熱くなってしまう自分が腹立たしい。
とりあえずこの男は自分の顔面偏差値が老若男女問わず陥落可能という自覚と自重をするべきだ。自覚があって自重していないだけの可能性が120億パーセントだが。
当事者の渡がこの調子だというのに、こっちばかりグズグズで、こんなにも無様。
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