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日が沈まない国
永遠の落日とでも形容すべき赤く禍々しい太陽が西の空に居座っていた。荒廃した大地には草の一本も生えず、地面はひび割れている。
探偵は帽子のつばを深くかぶり直すと歩みを進めていった。
暴力的に照りつける日差しを受けて、崩れかけた石造りの門が長い影を落としていた。その門に誰かが寄りかかっているのが見え、探偵は急いで歩み寄った。
「どうしたのですか」
青年は枯れ木のように痩せこけた体に、ボロ布のようになってしまった衣服をまとっていた。探偵の姿を認めるとわなわなと唇を震わせた。
「この国は……日が沈まないのです。ずっとこの調子で。だから、ずっと、眠れないんです……どうか……助けてください……」
喉の奥まで乾燥しているのか、青年の声はほとんど聞こえず、探偵は彼の唇の動きからどうにか言いたいことを汲み取った。
「日が沈まない、ですか。それは困りましたね。ここにもかつては立派な建造物があったのでしょうに、今では門しか残っていない……」
ふと、探偵は自分が発した言葉を頭の中で反芻した。
太陽。
門。
それに何か、この場所にはずっと違和感がある。視覚情報に比べて、あるものが圧倒的に少ないのだ。
青年の寄りかかっている門を詳しく調べると、文字が刻まれていた。
日 門。
「なるほど……そういうことですか」
「なにか、わかったのですか?」
青年がささやき声でたずねる。探偵は彼を安心させるようにゆっくりうなずき
「この国は、静かすぎるのですよ。『音』が足りない」
探偵は懐から小型のナイフを取り出すと、その文字にいくつか付け足すように彫っていった。削りかすに息を吹きかけて飛ばすと、掘られた文字が明らかになった。
暗闇。
文字が彫られた瞬間、世界が劇的に変化した。
太陽が地平の向こうに転がるように姿を消すと、大地が潤いを取り戻し、草が生い茂った。心地よい風が草原を駆け抜け、虫の音が優しく響く。
青年の目から涙がこぼれた。
「ああ……やった……これで、眠れる……」
膝から崩れ落ちると、大地に抱擁するように草の上に横たわり、ホッとした表情で眠りについた。
「どうぞ、良い夢を」
探偵は外套を脱ぐと、青年にそっとかけてやった。
彼は漢字探偵。
この世界に起こる不可思議な現象を独自の視点で解決に導く男である。
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