第一話 入谷の黄色いライスカレー

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   アメさんは当日まで詳しいことは教えてくれない。  なんでも、行ってみてのお楽しみというやつらしい。  ちょうど昼過ぎにJRと地下鉄を乗り継いで降り立ったのは入谷駅(いりやえき)だった。  そこから通りを歩くことしばし、日本家屋風の建物の屋根には『東嶋屋(とうしまや)』の文字。  引き戸を開け白いのれんをくぐると、「いらっしゃい」と声をかけてきた初老の店主は目を丸くした。  なにを隠そう、アメさんは目立つ。  すらりと背が高くて、ちょこんと小さな顔が乗っている。そんなモデル体型にまとっているのは、英国を意識した衣装だ。  春らしくミルクティーみたいな色のスリーピーススーツに、同色の山高帽、ステッキまで携えている。  店内に入ってこうして驚かれることしばしばだ。今日の店は下町の老舗のカレー屋さんだから、余計に悪目立ちしていた。 「こんにちは。二人です」  それでもアメさんは気にしない。  むしろ他の客から注目を集めて一層輝きを増した笑みを浮かべ、ピースサインを突きだした。我に返ったのが店主が頷く。 「ああ、お二人ですね。今テーブル席がいっぱいなんで、カウンターでもよろしいですか?」 「大丈夫です。キジくん、いいよね?」 「あ、はい。大丈夫です」  どこの誰が答えたのだろうと、店主は不思議そうな顔をした。  俺です。印象薄すぎてもはやアメさんの影みたいになってるけど、ちゃんと存在する連れです。  パーカーの上にブルゾン、デニムにスニーカーといういたって普通な格好の俺を見つけ、店主はほっとしたようにカウンター席へと促した。  店を入って手前にカウンター席と二人席、奥が少し広くなっていて四人がけのテーブルが置いてある。 「あれ? おそば屋さん?」  店内に張り巡らされてあるメニューをきょろきょろして俺が言うと、帽子を取ってカウンター脇に置きながらアメさんが頷いた。 「うんそう。おそば屋さんなんだけど、ライスカレーが有名なんだ」 「へぇ、そうなんですね」 「俺はカレーとざるそばのセットにしよう。キジくんはどうする?」  手元にあったメニュー表を見て悩むことしばし。  名物というからにはやっぱりカレーが食べたい。だけど、そば屋さんなんだからそばも食べたい。 「アメさんと同じもので」 「オッケー。じゃあ、カレーとざるそばのセットを二つください」  お冷やを運んできてくれた店員さんに注文を済ませた。
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