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二人は森の奥に辿り着きました。そして目の前には年をとった大木の本棚。その根元にはホントと瓜二つの小さな影がちょこんと座っています。
「ウソ!」
ホントが叫ぶとその影はハッとして、大きな幹の後ろに隠れてしまいました。がっかりした様子の二人をはっはと優しく笑う声が包みました。
「よくワシのところまで辿り着きましたな」
声の主はフクロウが教えてくれた、おじいさんの大木でした。
大木はウソから二人のことは聴いていること、二人に起こった森の中での出来事は全部知っていること、ウソがつい先程まで淋しい淋しいと泣いていたことを話しました。
「ちょっと、じいさん!それはナイショっていったのに!」
急に自分の恥ずかしい話を出され、慌てるウソをなだめながら、大木は男に尋ねます。
「ところで君は、本当と嘘どちらが大切なんだい?」
森の空気が一瞬にして変わりました。男はウソがいるであろう場所をじっと見つめ、ホントの手をギュッと握り直しました。
「俺にはどっちも同じくらい大切です。今日初めてわかりました、両方ないと駄目なんだって。ウソもホントも二人とも大切にしないといけないって……」
ぽつぽつと言葉を紡ぐ男を大木は優しく見つめ、ウンウンと頷き、ウソに「ほらほら、もうそろそろそ出ておいで、今のが彼の本当か嘘か君なら分かるだろう?」と語りかけましたが、ウソは答えません。再び森がシンとしました。しばらくして、小さな足音が響き、幹の後ろからウソがゆっくり出てきました。
「なんでひとりでいなくなるんだよ!本当に心配したんだぞ!」ウソに駆け寄り、泣きながら言うホントに、ウソはふざけて言います。
「ゴメンゴメン!今度はちゃんとホントには言ってから家出するから!痛って!」
「そういうことじゃないだろ!」
「わかってるよ!冗談に決まってるだろ~!」
いつものようにウソとホントがじゃれ合う横で、男は覚悟を決めたように咳払いを一つして、ゆっくりとウソに近づき、二人と同じ高さにしゃがみました。
「……別に、帰って来なくてもいいんだぞ」
男をジッと見つめるホントとウソ。
「……嘘だよ」
「へたくそ!」そう言いながら、ウソはフハッと笑い出しました。つられて男とホントも笑い出しました。三人ともなぜだか笑いが止まりません。いつもは静かな森の図書館に、この時だけは大きな笑い声が響き渡りました。
「さあ、そろそろ閉館の時間だよ。三人でお帰りなさい」
静かに三人を見守っていた大木が言いました。
「はい、そうします。あの、俺達また来ても良いですか?」
「勿論だ。ここは君達のための場所だからね」
大木に別れを告げ、外へ出た三人を嘘みたいに綺麗な夕日が照らします。図書館から真っ直ぐ伸びる一本道には、手を繋いで歩く三つの影が写し出されていましたとさ。
おしまい。
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