さよなら名探偵

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お手本のような事件だった。 一か月前に不審死した大旦那は、莫大な遺産を残し、 唯一正当な血を引くお嬢様と、お付きの執事に招かれて、 怪しい親戚や使用人が一堂に会したお家騒動。 こんな時には連続殺人と相場が決まってる。 一つ目の殺人事件の被害者は、海外帰りの嫌味な大叔母。 土着のわらべ歌になぞらえて、 「よけいな 言の葉 おしこんで」 口に綿詰め窒息死 山奥の辺鄙な洋館へ続く唯一の橋は、嵐によって通行止め。 数日間は出入りできない。 第一事件のあとすぐに、奇しくも紛れ込んだポンコツ刑事と太鼓持ち。 大叔母と喧嘩をしていた博打好きの甥が犯人だとしたり顔で騒ぎ立て、 案の定私にずさんな推理の隙を突かれて真っ赤な顔で黙り込んだ。 その晩の被害者は穏和なコック。 「わけあい あたえよ その御身」 バラバラ死体で見つかった。 若奥様とメイド長、その他数多の女との関係が浮き彫りになり、 阿鼻叫喚のキャットファイト。 夜に怯える屋敷の者を あざ笑うように真昼間 「照らせよ 捧げよ とりどりに」 美しいドレスをまとった第二夫人、屋根の飾りに突き刺さる。 残すは一節わらべ歌 「きれいな花も 捥ぐ神よ」 お嬢様にもお誂え。 さあさ皆様お立合い。 なぞらえ連続殺人事件は 歌い切る前に止めましょう。 それがテンプレ美しい、ベタで愛する相場ってもの。 さあ、誰がこんなに恐ろしいことを? 「この場に全員集めてください」
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