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――半月後。
「よーし、良い子だ。そら、受け取れ」
塀の上から俺が投げた餌は、空中でティラノサウルスの巨大な顎に捉えられた。
生け捕りに成功した巨大ティラノサウルスは、NInGen本社に隣接する古生物専門動物園『新六甲島古生物パーク』で飼育されることになったのだ。園の入場者数増にも、かなり貢献しているという。
「って、お前それ、うちの社が最近推してる高タンパク質飼料じゃないか。こんなただでさえでかい奴を、これ以上マッチョにしてどうするんだよ!?」
横で見ていた班長が、声に焦りを滲ませる。
「逆に考えましょう。ここまででかくなっちゃったら、もう今さら多少筋肉が増えたところで大した違いではありません」
「まったく……」
班長は右手で頭をがりがりと掻きむしった。
「うちの班の役目は捕まえるところまでのはずだが、あの狼といいこいつといい、お前はやたらと捕まえた後も関わりたがるな」
「班長、いい加減パックのことは『あの狼』じゃなくて名前で呼んであげてくださいよ」
「お前、まさかこいつもあの狼みたいにそのうち現場に連れて行こうとか考えてるわけじゃないだろうな?」
パックを名前で呼んであげて欲しいという俺の切なる願いは、完全に無視された。
「そりゃまあ、こいつが味方になってくれたら相手が熊だろうが何だろうが怖いものなしですけどね。でもさすがに俺も、そんな無茶なことは考えてませんよ。パックみたいに言うことを聞いてくれるわけじゃありませんし、最近はようやく人間を獲物として見ようとしなくなりましたが、そこまでもっていくだけでも大変だったんですから」
人間を餌と見做さなくなったのは、見た目と臭いを人間に似せた人形にティラノサウルスが嫌がる味をわざとつけてそれを与えたりとか、そういうことをいろいろとやった成果だ。
だが、これ以上躾けるのは恐らく無理だろう。元々、人間の指示に従うような性質を持つ生物でもない。
更に言えば、仮にこいつが言うことを聞いてくれるようになったとしても、こんなでかくて目立つ奴を連れて行ったりしたら、捕獲対象の古生物はこちらが見つけるよりも先に逃げ出してしまうこと請け合いだ。
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