第三幕:特定危険古生物・コードネーム〝チャレンジャー〟

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第三幕:特定危険古生物・コードネーム〝チャレンジャー〟

「くそっ! ふざけたまねしやがって!」  柳山イエナオは病室のドアを蹴りつけた。元が白いドアであるだけに、それによってついた靴跡がはっきりと目につく。それがまたイエナオを苛立たせた。  表向き、ここは病室ということになっているし、確かに第ゼロ班と戦った際に負った怪我の治療も受けている。  だが実際のところ、ここは牢獄だった。牢獄兼尋問室だ。  部屋から出ることは許されていないものの、今のところ拷問などは受けていない。しかしイエナオが重要な情報を何も喋ろうとしないことに、いいかげん相手も業を煮やし始めているはずだ。果たして、いつまでこの程度の扱いで済ませてくれるか。  一刻も早くここから脱出しなければ、と思う。  だが、窓は嵌め殺しの上に鉄格子が入っている。一度殴りつけてみたが、防弾ガラスらしくびくともしなかった。仮に割れたとしても、鉄格子をなんとかしない限り外には出られないし、そして出たところで窓は地上から十メートル以上の高さにある。  となればドアの方から出るしかないが、もちろんそこには鍵が掛けられている。さっき蹴りつけてみた時によく分かったが、ドア自体も相当頑丈に作られているようだ。  つまり、人のいない時にこっそり抜け出すことは不可能と言って良い。  であれば、人のいる時にやる他無い。傷の具合が悪化したふりをして医者を呼び寄せ、相手がドアを開けた隙に脱出するといったやり方だ。  問題は、この方法だと脱走が即座にバレてしまうという点である。恐らく、建物や敷地の出入り口が封鎖されてしまうだろう。単に逃げ出すだけではジリ貧に陥る。  この際、やって来た医者を人質にとるか?  イエナオがそんな物騒なことを考えていると、カタン、とドアの外で音が鳴った。  何だ?  イエナオは警戒する。脱出を目論んでいた自分の思考が読まれていて、先手を打って向こうから何か仕掛けてきた――ということはさすがに無いと思うが、ここは敵地だ。唐突に自分にとって不利な状況に陥ったとしても、なにも不思議ではない。  ドアに耳をつけて外の様子を覗おうとした時に、気づいた。ドアがわずかに……ほんのわずかにではあるが、開いている。その隙間をもう少しだけ押し広げ、外の様子を覗う。  誰もいない。その代わり、床に何かが落ちていた。見慣れた眼鏡型情報端末だ。  誰かが落として行ったのか?  イエナオ自身の端末は既に取り上げられている。しかしこの端末が使えれば、仲間と連絡が取れるかもしれない。そうなれば、ここから脱出できる公算も上がるはずだ。とはいえ、どうせ端末にはロックがかけられていることだろう。  イエナオはそう考えていたが、意外なことに端末のロックは解除されていた。そしてディスプレイを点灯させた時、そこに表示されたものを見てイエナオは目を見開いた。  そこには、他ならぬ彼へのメッセージが記されていたのだ。 『私はNInGen社が道を誤ってしまっていることを憂える者である。君が私と同じく正義の志を持つ者だと信じ、これを託す』  それに続く情報は、イエナオを更に驚嘆させるものだった。この端末を使えば、極秘情報――具体的には、サイトBで作られた特定危険古生物についての情報へのアクセスも可能だというのだ。  やはり特定危険古生物は実在したのだ。  イエナオはさっそく、その情報へアクセスする。そこには、NInGen社が作り上げたおぞましい生物についての記述があった。  イエナオの額を、汗が流れ落ちる。  何ということだ。この悪行を、なんとしてでも世間に知らしめねば。  だがそのためには、証拠が必要だった。  何よりも説得力のある証拠、それは奴らが作り出したその生物それ自体に他ならない。  それらの生物は普段、警備が厳重なサイトBで飼育されている。しかしその一部が、近々研究のため本社に輸送される予定だという。その日程と輸送ルートについての情報も、端末を介して入手することができた。しかもどうやら、イエナオが元々使っていた通常の端末ではマップに表示されない特定危険古生物のタグ情報も、この端末なら見られるという。  やることは決まった。輸送途中のこの生物を強奪し、奴らの悪行を白日の下にさらけ出す。  そのためには、まずここから抜け出す必要がある。  幸いにして、ドアが開けられていることに気づかれた気配は無い。    イエナオは左右を確認すると、廊下へ出て走りだした。
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