第三幕:特定危険古生物・コードネーム〝チャレンジャー〟

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「一階担当班、気をつけろ! 対象生物はエレベーター内に潜んで麻酔薬の吸入を回避した可能性がある! 外をかためているチームは対象生物が飛び出してきた時に備えて銃撃の準備を!」  無線の向こうから響いてきたその叫びを聞き、一階担当班の者達はぎょっとして互いに顔を見合わせた。 「一階って……ここじゃないですか⁉」  班員の一人が、顔を青ざめさせながら裏返った声をあげる。  今さら何を焦っている。危険を覚悟の上で来たはずだろう。  そう喉元まで出かかったのを、一階担当班のリーダーは呑み込んだ。  自分とて対象生物は既に麻酔薬で無力化されていると思っていたし、仮にそうでなかったとしても、いるのは二階だろうと考えていた。気の緩みがあったことは否めない。どうして部下だけを責められようか。 「そんなに怯えるな。エレベーターの扉くらいで、気化した麻酔薬を完全に防げるはずもないだろう。仮に眠ってはいなかったとしても、動きは鈍くなっているはずだ。だが、油断はするな」  部下を励ましつつ、エレベーターの扉に銃口を向ける。  扉は閉ざされたままで、中から何かが出てくる気配は無い。  そういえば、エレベーター内に入ったということは、対象生物は扉の開閉ができたのか? ただの動物が?   いや、ぶつかった時に偶然ボタンを押してしまい、扉が開いたというだけだろう。  部下の一人に頷いてみせると、彼はライフルの先端でエレベーターのボタンを軽く突いた。扉がゆっくりと開いていき、自動音声が流れる。 『上に参ります』  さあ、出てこい。蜂の巣にしてやる。  だが、扉が開ききった時――そこには、何もいなかった。
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