22人が本棚に入れています
本棚に追加
/97ページ
「一階担当班、気をつけろ! 対象生物はエレベーター内に潜んで麻酔薬の吸入を回避した可能性がある! 外をかためているチームは対象生物が飛び出してきた時に備えて銃撃の準備を!」
無線から流れる切迫した叫びを耳にして、最上階である十階担当の面々は一瞬顔を強張らせた。しかしその内容を理解すると同時に、安堵の溜め息をつく。
一階担当の者達には悪いが、この階でなくて良かった。
それが、彼らの偽らざる思いだった。そこに気の緩みがあったがために、エレベーターへと繋がるはずの扉が開いているのを目にした時、それが何を意味するのかをとっさには考えつかなかった。
扉の奥は空洞だ。エレベーターは一階に降りているのだから、当然である。
「エレベーターが無いのに何で扉が開いてるんだ? 故障か?」
不用心にも、一人が中を覗き込む。
エレベーターを吊り下げるためのワイヤーが中央に伸び、はるか下方にはエレベーターの天板が見えるが、それだけだ。特に異常は認められない。
頭を引っ込めようとした直前、上方から微かな音が聞こえたような気がした。
あるいは、それは虫の知らせのようなものだったのかもしれない。
なにげなく、顔をそちらへと向ける。
見上げる彼の目に映ったのは、爛々と光る二つの眼球だった。
最初のコメントを投稿しよう!