第三幕:特定危険古生物・コードネーム〝チャレンジャー〟

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「うわあああああああああああああああああああああああっ!」  その悲鳴を俺が聞いたのは、一階担当班からエレベーター内に対象生物の姿は無かったという報告を受けた直後だった。  悲鳴に続いて、切羽詰まった様子の声が無線から流れる。 「こっ、こちら十階! エレベーターシャフト内最上部に対象生物を発見するも、逃走を許しました! 申し訳ありません」  エレベーターシャフトの最上部⁉  どうしてそんなところに、と一瞬混乱しかけたものの、俺はすぐに状況を理解する。  そうだ。エレベーターシャフト内は、十階に停止時のエレベーターを上から吊り下げるためのスペースが必要な分、十階よりも上の高さまで空間があるのだ。  ヒョウ型は二階に気化麻酔弾が着弾した時点で、建物内の階段を使って最上階まで駆け上がった。そしてそこへ達すると、エレベーターシャフト内へと続く扉を無理矢理こじ開けて侵入し、ワイヤーを伝って更に上のスペースまで登ったのだろう。  手で物を掴むことができ、樹上でも機敏に動けるというヒョウ型ならば、そのくらい朝飯前に違いない。  そして気化した麻酔薬は空気より重いため、十階に撃ち込まれた麻酔薬は下に拡散することはあっても、十階より更に上にあるエレベーターシャフト内最上部に達することはない。そうやって麻酔薬の吸入を免れたに違いない。  嫌な汗が全身から滲み出る。  なんなんだ、こいつは。まぐれで適切な対応がとれているだけなのか。それとも……? 「負傷者は⁉」  無線で問い返しながら、情報端末に表示されたヒョウ型の位置を確認する。窓の方に向かっているようだ。しかし二階や三階くらいならまだしも、いくらなんでも十階では窓から飛び降りることはできないはず。いったいどうするつもりなのだ?  答えは考えつかなかったが、とにかくビルの周囲をかためているチームには注意を促しておく必要がある。
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