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オルルゥゥーーン、という奇妙な遠吠えが窓の外から響いてくるのを、俺の耳は捉えた。初めて聞く声だ。もしかすると、今のがヒョウ型の鳴き声か?
それに呼応するように、小さな鳴き声が遠くから聞こえてきた……ような気がした。
そのことについて思考を巡らせる間もなく、ビルを包囲している警備部門の現場指揮官から連絡が入る。十階の窓から外に出たヒョウ型は、このビルの屋上に上がったのだという。
「了解。すぐにこちらも屋上に向かいます!」
言うと同時に駆け出そうとした俺は、「待ってください!」という現場指揮官の言葉に慌てて足を止めた。
「どうしました?」
「今、対象生物が隣のビルの屋上に飛び移りました」
情報端末上の位置表示を確認する。確かにヒョウ型の位置は、隣のビルへと移っていた。そういえばこいつ、ジャンプ力も売りの一つだったか。
「くそっ、本当になんなんだ、こいつは」
走るのが速く、木やロープなども登れて、しかもジャンプ力がある。こんな機動力を持つ相手を追い詰めるのは至難の業だ。
……いや。
そうじゃないな。
こいつを並外れて厄介な存在にしている一番の要因は、素早さでもジャンプ力でもない。的確にこちらの裏をかいてくる知能の高さだ。ならばこの遁走も、ただ逃げているだけではないと見た方が良いのか……?
「メガネウラ、マップの表示領域を拡大」
『表示レベル3に調整しました』
広域表示にされたマップ上を、A+と書かれたマークが移動していく。そして、その先にあるのは――。
「まさか……」
進行方向には、A+と書かれたマークがもう一つあった。
「対象生物を急いで追ってください! そいつは……そいつは、仲間と合流する気です!」
無線の向こうで息を呑む音が聞こえた。
「既に追跡はさせていますが……しかし奴はいったいどうやって仲間の居場所を?」
「恐らくさっきの遠吠えでしょう。あれで互いの居場所を知らせ合っていたんです。チャレンジャー――対象生物は群れで狩りをする動物だと聞いています。だとすれば、ありえない話じゃありません」
しかし今になって合流するのならば、そもそもなんでばらばらに逃げた?
それに、あんな風に窓から屋上に上がってそのまま逃げられるのなら、もっと早くに逃げ出して仲間と合流することもできたはずだ。なぜ今の今までそうしなかった? 気化麻酔弾を撃ち込まれるまでは身の危険を感じなかったから? 本当にそれだけか?
分からない。何も分からないが、一つ確実に言えることがある。
A+級特定危険古生物〝チャレンジャー〟――こいつは、これまで相手にしてきた古生物達とはまったく違う。一刻も早く、仕留めなくては駄目だ。
でなければ……何かとんでもないことが起こる。
そんな気がする。
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