第三幕:特定危険古生物・コードネーム〝チャレンジャー〟

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「こちらが下から撃っているのでは、ヒョウ型を狙えるタイミングは屋上から屋上へと飛び移る僅かな時間しかありません。それでは、埒が明かない。撃つなら、こちらも相手と同様に屋上にいなくては駄目です」  俺のその言葉を受けて、警備部門の者達は困惑した様子で顔を見合わせた。 「しかし建物の上に上がってしまうと、徒歩で追うしかなくなります。人間の速さではとてもあの生物にはついていけませんし、相手のように建物の屋上から屋上へと飛び移ることもできません。それでは撃つどころか、引き離されてしまう一方なのでは……」 「そうですね。相手を後ろから追いかけようとすると、当然そうなります。ですから、先回りをして待ち構えておくのです」  カウフマン研究統括部長の話では、ヒョウ型の最高時速は八十キロとのことだった。  だが、これはあくまでも『最高』だ。そのスピードでずっと走り続けられるというわけではないだろう。しかも、今は真っ直ぐで平らな地面を走っているわけではなく、建物の屋上を走っては次の建物に飛び移るという移動の仕方をしている。飛び移って着地する度にいったん速度が鈍るから、加速し続けることはできない。  タグの動きを見ても、車なら十分に先回りできる程度のスピードにおさまっている。 「あれが向かっている先は、センザンコウ型とかいう別の奴がいるところだという話ですよね? では、そのセンザンコウ型がいるところで待ち伏せるのですか?」 「いえ、群れで連携して狩りをする動物である以上、万が一合流されてしまうと厄介な事態になりかねません。もっと手前で仕留めたいところです」 「もっと手前と言いましても、相手が道を走っているわけではない以上、ルートはいくらでもあるのではありませんか?」 「そうでもないんです。確かに奴は道を走っていませんが、だからと言って移動経路が無制限というわけではありません。建物間の距離が離れすぎていて飛び移れないところは通れませんし、高低差がありすぎても無理です。少なくとも、低い所から高い所へ飛び上がる必要がある場所についてはそうでしょう。高い所から低い所へ飛び降りる分については、ある程度の差までなら、なんとかなるかもしれませんけどね。となれば、センザンコウ型のいるところまでたどり着くのに取り得る経路は限られてきます。せいぜい、この三つくらいでしょうね」  俺は、指揮車のモニターに表示されたマップ上に、三つの経路を描いてみせた。その上で、一つの建物を指し示す。 「……そして、どのルートをたどるにしろ、必ずこの建物の屋上を経由します」 「では、うちの隊の全員をここへ集結させますか?」  現場指揮官の言葉に、俺は目を閉じて少し考える。 「……いえ、隊を半分に分け、残り半分はこのまま後ろから追跡させましょう。もしかすると、途中で屋上から屋上へ飛び移るのをやめてどこかの建物内に入ろうとする可能性もあります。最初のビルから逃げ出した時みたいに、パイプを伝って屋上と窓を行き来すればそれも可能でしょう。しかしその場合、速度はどうしても鈍りますから、その時は追跡班にそこを狙って撃ってもらいます」 「了解しました」  俺自身は、待ち伏せ組の方に入ることにした。  ここまでは相手に裏をかかれてばかりだった。だが今度は、こちらが裏をかく番だ。
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