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ヒョウ型に続いてセンザンコウ型も倒されるのを見届けた後、俺はヒョウ型に対する射撃ポイントだったビルの屋上から降りた。
地上まで降りきると、センザンコウ型の死体を前にしてぼんやりと立ち尽くしているミナ班長の姿が目に入った。せっかく任務が成功したというのに、その横顔はなぜか苦渋に満ちているように見える。
いや、なぜかということもないか。
班長は前々から、どれほど危険な古生物であろうとも殺すのを嫌がる人だった。他部署と共同の大がかりな作戦で、なおかつ相手はA+級などという別格の危険度、そして上からの射殺命令もあるという今回ばかりはさすがにそんな自分の我がままを通すわけにもいかないと頭では理解していても、心が受け止めきれていないのだろう。
そんな班長の表情を見ていると、なんだかその辛い気持ちがこちらまで伝播してくるような気がした。
それを振り払うように、声をかける。
「班長」
物思いに耽っていた様子の班長は、はっとしたようにこちらに顔を向けた。その目が大きく見開かれ、顔色が真っ青になる。
「どうして……死んだはずじゃ……」
なんてことを言い出すのだ。
「いやいやいや、俺がいつ死んだっていうんですか。なんか顔色がやけに悪いですが、大丈夫ですか、班長?」
「あっ、ああ、なんだ、ハルツキか……」
「誰だと思ったんです?」
「いや、なんでもない。ちょっと疲れてただけだ。そんなことより、今大事なのは残りのチャレンジャーがどうなってるのかだ」
ちょっと疲れているどころの顔色ではないように見えたが、こうもあからさまに話題を逸らされては、その点については触れづらい。それに、今大事なのは残るチャレンジャーへの対応だというのは、確かにその通りではある。
ヒョウ型とセンザンコウ型を一頭ずつ倒し、残るはクマ型とヒョウ型がやはり一頭ずつだ。
ツツジと連絡をとって向こうの状況を聞きたいが、まだ戦闘中だった場合、通話を入れたりはしない方が良いだろう。
そう考えて、ひとまずメッセージだけ送っておくことにした。これなら、向こうが余裕のある時に見れば済む。
「メガネウラ、ツツジにメッセージを送信。文面は『ハルツキならびにミナ班長は担当のチャレンジャーの処理に成功。そちらの状況を知らせられたし』」
アシスタントAIのメガネウラは俺の指示に対し、間を置かず返答した。
『送信先の端末は、メッセージを受け取れる状態にありません』
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