第四幕:Welcome to Paleontologic World!

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 アルベルトとの通話を終えると、ミキは大きく安堵の息をついた。  正直に言えば、分の悪い賭けだと思っていた。  たとえミキが自らを人質とする狂言誘拐を演じても、養父のアルベルトはミキへの私情よりも現生人類全体を守らんとする立場を優先し、こちらの要求を拒絶する可能性が高いと予想していたのだ。    どうやらアルベルトのミキに対する情は、ミキ自身が思っていたよりもずっと深かったらしい。そんな養父を騙して利用することに、ミキは複雑な感情を抱きかける。しかしすぐに、その感情を頭から追い払った。  騙して利用してきたのは、これまでだってずっと同じだ。今回の計画だって、アルベルト達の計画に便乗し利用するかたちで立てられたのだ。  もっとも、そんなミキ達の計画も、今や大幅な軌道修正を余儀なくされているが。  こちらが出した要求を実行するためには、アルベルトはNInGen本社ビルのメインコントロールルームを制圧しなくてはならない。場所自体がごく一部の者にしか知らされていない普賢のコントロールルームとは異なり、メインコントロールルームは警備部門の人間により厳重に警備されている。  しかしミキは、それでもアルベルトならば制圧可能だと踏んでいた。  第ゼロ班は形式上こそNInGen社の危険古生物対策課に属しているが、実際は輪読会の直属だ。そこの班長であるアルベルトがメインコントロールルームに通せと言えば、NInGen社の者達に拒否することは難しい。その上、実戦においてアルベルトは、警備部門の人間が束になってかかっても勝てないだけの実力を有している。  あとは、仲間達が隠し持っている情報端末に連絡を入れ、島から脱出するよう彼らに伝えなくてはならない。この島が全て沈んでしまう、その前に。  がさがさと茂みをかき分ける音が近づいてきたのは、ミキがカエル型の待つ地下に戻ろうとしていた時だった。ミキは、思わず身をかたくする。慌てて、音の方向とは反対側の茂みに駆け込んで身を隠した。  息を潜めて様子をうかがっていると、やがて一人の人物が、先ほどまでミキがいた場所に現れた。その顔に、ミキは見覚えがあった。地下空間で養父に食ってかかっていた若い女だ。 「普賢コントロールルームへの入り口が開けっ放しになっている……。やはり普賢に何かあったのか」    女は険しい顔で呟くと、地下の普賢コントロールルームへと続く出入り口に入っていった。  ミキは、自分の迂闊さを呪った。    出入り口をきちんと閉めておけば……いや、それはユーレイの権限でなくてはできない。ならばユーレイとカエル型もいっしょに連れてくれば良かったのだ。下で待たせておくべき理由なんて、よく考えてみれば大して無いのだから。  そこでミキは、このままいくと今入っていった女がユーレイやカエル型に出くわしてしまうことに思い至る。    ユーレイに対してそうしたように、あの女の目をうまく欺いて奇襲を仕掛けられれば、カエル型にも勝機はある。  だが、カエル型は今、ユーレイの肩の上に乗っているはずだ。ユーレイが正気を取り戻しそうになったらすぐに噛みつけるようそうさせたのだが、それではいくら体色を変化させてもシルエットで存在がバレてしまう。  おまけに、地下空間でのやりとりから考えると、あの女は危険古生物対策課の一員だ。ユーレイとは違い、実戦経験を積んでいる。都合良く見逃してくれる可能性は低いだろう。  ミキは慌てて女の後を追い、再度地下へと向かった。  あの女がカエル型を見つけてしまう前に、どうにかして注意を引きつけなくてはならない。そしてその隙をつくかたちでカエル型に噛みつかせ、ユーレイと同じく朦朧状態にするのだ。  その後は……殺してしまった方が良いだろう。  ユーレイはまだしも、あの女には人質としての価値は無さそうだ。ならば、わざわざ生かしておく理由も無い。
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