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我に返るまで、どのくらいの時間がかかっただろうか。
体感的には一瞬だったように思うが、同時に何時間も呆然としていたような気もした。周囲の音が聞こえてきた時には、まだ端末から解説音声が流れていたため、実際にはさほど時間は経過していなかったのだろう。
『――ンシスを含む数多くの生物が本種によって絶滅に追い込まれたとされ、本種は他に類を見ない危険性を有する古生物と考えられることから、S級特定危険古生物に指定されています。また、本種を隔離区域である新六甲島から持ち出すことは固く禁じられ――』
何かの冗談としか思えなかった。
ホモ・サピエンス――つまり俺達が、二十万年前の古生物?
俺達自身が、RRE法によって現代に蘇らせられた存在?
馬鹿馬鹿しい。いくらなんでも、そんなわけがない。
考えてみれば、この端末は出所が怪しい不正端末だ。イエナオさんがいったいこれをどこでどうやって手に入れたのかだって分からない。この端末が教えてくれる情報が信用に値すると、なぜ今まで無邪気に信じていたのだろう。
……それとも、俺がこんな風に考えるのは、ただの現実逃避なのだろうか。少なくともホモ・フトゥロスについて言えば、この端末は隠蔽されていた真実を教えてくれたのだ。
いやしかし、人を騙すには全てを嘘で塗り固めるよりも、多くの真実の中に一欠片の嘘を紛れ込ませる方が効果的とも言うし、この端末を作った人間がそれを狙った可能性も……。
唐突に、服の袖が引っ張られた。ぎょっとして、そちらへと目を向ける。そして袖をくわえているパックと目が合い、俺はため息をついた。
「驚かすなよ、お前」
パックは袖を放したが、そのままこちらをじっと見ている。
「……もしかして、心配してくれてるのか?」
この場には鏡なんて無いので自分で確認はできないのだが、この分だと俺は相当酷い顔色をしているのかもしれない。
いや、狼は色を認識できないから、顔色は分からないか。しかしそれでも、俺の様子がおかしいことには気づいていそうだった。
俺はパックの頭をわしわしと撫でた。パックは気持ちよさそうに目を細める。
「心配してくれてありがとうな。もう大丈夫だから」
本当に大丈夫なのかと問われると、それは怪しいところなのだが、少なくとも先ほどまでと比べれば頭は多少冷えた。
その多少は冷えた頭で、今しがた得た情報について考え直す。
俺達〝島民〟がこの島に隔離されているのはヒトウドンコ病の病原体を保有しているからで、全員が三十歳以下なのは、無症状病原体保有者になれるのは感染時に乳幼児だった人間のみだから――これまで俺達は、そう教えられてきた。
だが、俺達ホモ・サピエンスが三十年前に復活を開始された古生物で、しかも危険度S級なのだとすれば、ヒトウドンコ病とは関係無く年齢の偏りや隔離扱いについて説明がつく。
しかも、イエナオさんが持っていた出所不明のレポートに書かれていた、ヒトウドンコ病の無症状病原体保有者なんてものは存在しないという話とも合致する。
だが同時に、ひっかかる部分もあった。
茫然自失としながら聞いていたから聞き間違いという可能性もあるのだが、先ほど聞かされた説明にはおかしなところがある。
俺は確認のため、もう一度聞き直してみることにした。
「メガネウラ、S級特定危険古生物に関する詳細情報を開示」
『一種該当しました。S級特定危険古生物、ホモ・サピエンス。本種は新生代第四紀、約二十万年前のアフリカに生息していた化石人類です。絶滅したヒト科生物の中では最も現生人類ホモ・ネアンデルターレンシスに近縁な種とされており、脳の容量は現生人類よりやや小さいものの、現生人類に近い知能を持つと推測されて――』
やはりそうだ。この説明は、おかしい。
もし本当にホモ・サピエンスが絶滅し、そしてホモ・ネアンデルターレンシスが地球の覇権を握ったのだとしても、こうはならないはずだ。
これはますます、事情を知る人間からきちんと話を聞く必要がありそうだ。
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