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プロローグ
インターホンを押すと扉の向こうで、ピンポーン、と軽い音が鳴るのが聞こえた。そのすぐあとにパタパタパタと跳ねるような足音が続く。
「わ、久しぶりー! 元気だった?」
扉を開いた彼女は僕の顔を見るなり笑顔で捲し立てるように言った。あまりの変わらなさに僕は苦笑する。
「元気だよ。果歩は元気だった?」
「私はすごく元気だったよ! とセリフにすることで、私はすごく元気ということになるんだよね!」
「……ん、セリフ? ま、まあ元気そうでよかった」
ちょっと彼女の言葉の意味がわからなかったが、そんな僕を置いて彼女は「さあさあ立ち話もなんですし」と室内へ導く。初めて入る部屋に少し緊張しつつ僕は歩を進めた。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ~」
靴を脱ぎ、先を行く彼女についてリビングに入る。
小さなテーブルとベッド、テレビに本棚とシンプルだが、家具や雑貨の色味を合わせており、まとまりがある。高校の頃から、こういうセンスは抜群だったんだよな。
「きれいな部屋だね」
「めちゃ片付けたからね! 昨日までは地獄みたいだった!」
「どんな部屋で生きてるんだよ。でも、わざわざありがとね」
「いえいえ。秘技を使ったから余裕だぜ」
胸を張って彼女は答えた。
「へえ。地獄を現世に戻す技なんかあるんだな」
「あれ、もしかして拓也くん知らないの?」
え、何を?
僕は果歩にそう訊こうとしたが「あ、もうこんな文字数!」と彼女の驚く声に遮られた。
「ほらそろそろ寝て本編に入らなきゃ! プロローグが長すぎたら読者が飽きてこのページ閉じちゃうから!」
「君はいったい何を言ってるんだ?」
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