29人が本棚に入れています
本棚に追加
不思議な出来事の始まり
バスから下車し、目の前の宿を見る。
ずいぶん豪華だな。
快晴の青空にワインレッドのホテルの屋根がよく映える。
「ここかホテルかぁ。きれいだね」
ミツキがホテルを見上げながら言う。
みんながホテルの中に入り始める。
わたしは最後のほうに並んでホテルの中に入る。
宿の中は広々としていて居心地がよさそうだ。
「こんにちは」
私はドアの前にいた若い男性にあいさつをする。
最初のときはいなかったよね……? 宿の人かな。
顔を上げた瞬間、さっと悪寒がした。
さっきまでクラスメイト放っていたにぎわいが消え、三十八人いたクラスメイトは九人に減っている。
雲一つなかった青空は嵐に天候が変わっていた。
「えっ⁉みんなは?」
ミツキが声を上げる。
よかった、ミツキはいる。
ほかの人は?
私はあたりをきょろきょろを見る。
そこにはさっきトランプをやったカイキ、レオン、アリサ、マイ。
そしてクラスメイトのホノカ、シノ、ユウヤとさっきあいさつした若い男性がいた。
ホノカは一見、上品そうに見えても中身は結構元気系で自分のことはうち呼びでクラスメイトのことを全員呼び捨てで呼んでいる。
そのギャップが激しいため一部のクラスメイトの中では裏のあだ名で『ギャップ女王』とささやかれている。
シノは人気アイドルグループのメンバーの一人でこの学年だけでなく仙泉小学校中で人気のある人だ。
でも、小学校中で人気になって困っているためほかの学校には自分の存在がばれないようにしている。
ユウヤはシノの友達で漫画家だ。
今まで様々なジャンルの漫画を完成させて賞に出している。
実際に一回だけとある賞で金賞を受賞して漫画を書籍化させたことがある、そのときは話題になってクラスメイトのほとんどがその漫画を買っていた。
それで人気が急上昇したため、今では漫画界で注目させている。
全員で十人か、ほかの人はどこ行ったんだ?
「みんな心配させてごめんね、僕はこの宿の宿主の一ノ瀬明だ。さっきまで晴れていたのに不思議だね。今日はここに泊っていくといいよ。部屋は準備してあるからさ」
そういうと明はみんなの不安を飛ばすように笑いかける。
そうだな、今日は不必要な動きはしない方がいいかもしれない。
明さんの言う通り、今日はお言葉に甘えて泊まらせてもらった方が……」
すると、ミツキがみんなに向かって手招きをしている。
私たちはすぐにミツキのもとに集まる。
「どうする? 明さんは泊っても大丈夫だって言っているけど」
ミツキは小声で言う。
「私は泊っていいと思うよ。どのみち私たちは今日からここに泊る予定だったしね」
私は自分の考えを言う。
「俺も白石の意見に賛成だ。もしも、ここから出たとしてもほかの人たちが見つかるとは限らない。だったらお言葉に甘えた方がいいと思う」
カイキもレイカに続いて自分の意見を言う。
「白石さんも水谷さんも賛成意見のようですね、反対の意見の人はいますか?」
アリサが上品な口調で言う。
無言が続く、どうやら反対の人はいなかったようだ。
「それでは決定ですわね」
アリサがにっこりと笑顔を浮かべると一ノ瀬さんのほうへ向かう。
「すみません、宿泊の件ですがお願いしてもよろしいでしょか?」
アリサが一ノ瀬さんに話しかける。
「もちろんだよ、部屋はもう用意してあるから好きな部屋を使っていいよ。荷物を置いておいで」
一ノ瀬さんはそういうと、さわやかな笑顔で言う。
「行こっか」
ユウヤがみんなを連れて部屋のほうへ向かう。
部屋は全部で十室あった。
「これどうする? 複数人で一部屋でも一人一部屋でもいいけど」
ホノカは首をかしげる。
「一人一部屋でいいんじゃない? 寝る前に一緒にいられるわけだし」
レオンはすぐに自分の意見を言う。
「うーん、マイは反対かな。ワイワイなりながら寝たいからなぁ」
マイはレオンとは違って反対意見のようだ。
「わかりやすいように一人一部屋でいいんじゃない?」
シノが続けて意見言言う。
「ああもう、キリないな。多数決でいい?」
私はみんなの意見が飛び交う中、ひときわ大きな声を出す。
しーん……。
急に静かになる。
えーっと、ダメだったかな?
「いいじゃん、うち仕切っていいー?」
ホノカがピシッと手を上げる。
「いいよ」
マイがニッコリと笑顔でいうと、ホノカはコクリとうなずいた。
「それじゃ、一人一部屋がいい人ー?」
……五人、一人一部屋で決まりだな。
私は何も言わずに一番近くにあった部屋をガチャッと開けた。
「わぁ!」
部屋は和室で一人で十分すぎるぐらいの広さだ、部屋の角にはローテーブルがあった。
私はすぐに荷物を置く。
なんでかは知らないけど時計が置かれてないな。
とりあえずほかの人の部屋に行こう。
私はすぐに隣のミツキの部屋に行く。
「ここにも、時計はないのか」
私は静かにつぶやく。
「時計を探してるの?」
トンッ
肩に手を置かれる。
振り向かなくてもだれかわかる。
元気なこの声はミツキだ。
「うん、どこにもないんだよね」
私はゆっくりと振り向くとあごに手を置きながら言った。
「白石、高畑ここにいたのか」
カイキが二人に駆け寄る。
「どうしたの?」
私は首をかしげる。
「いや、部屋に荷物を置いてホテルの入口にあった公衆電話で学校に連絡しようとしたんだ。そしたら電話がつながんなくて……」
「それって、電波が届いてないっていうこと⁉」
ミツキは目を大きく見開く。
「それじゃあ、時間が分からないよね。エントランスにあったっけ?」
レイカは階段の下からエントランスを見つめる。
「俺、ちょっと見てくる」
そういって階段を下るカイキ。
数分後。
「時計あった、今は夜の十一時だってさ」
カイキが肩で息をしながら言う。
「夜⁉ みんなに言いに行かなきゃじゃん、多分気付いてないよ」
私はすぐに駆け出す。
でも、騒いでる様子はなく意外にもしんとしている。
あれ、みんな起きてると思ったんだけどな。
私は一番近くにあった部屋のドアを少し開けてみる。
電気が……消えてる。
全部で十室だから満室のはず。
だからここは誰かの荷物が置かれているはず。
今、廊下にいるのはミツキとカイキと私の三人だけ。
ほかの人は部屋に入っている。
……それなら私たちも寝るか。
「みんな寝てた、私たちも寝よう」
「そっか、おやすみ。レイカ」
ミツキがにっこり笑顔を作る。
カイキは無言のまま自分の部屋へと向かった。
私は部屋に入るとすぐさま布団にダイブ。
羽毛布団が眠気を刺激した。
うぅ……まだ初日なのに、疲れているからか眠いよぉ。
電話がつかないんだよな、私たち戻れるのかな?
嵐がやんだら電波ももとに戻るはずだから学校に……連絡して……。
ダメだ、思考が……。
私はしっかりと布団に潜り込む。
次の瞬間、私は深い眠りについていたのであった。
最初のコメントを投稿しよう!