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1日目 議論時間
「それではゲームを始めよう。夕方六時までにはどこに投票するかを決めておいてください。何か質問がありましたら私に申し上げてください」
GMがゲームスタートを合図する。
人狼ゲームが始まった。
でも、私以外人狼ゲームをやるのは初めてでやり方がわかっていないようだ。
......っていう私も数回やったぐらいなんだけど。
「そういえばカイキってどこ行ったの?」
ホノカが辺りを見渡す。
「カイキならそこにいるよ」
レオンがラウンジの端っこを指差す。
カイキはイスに座って何かをいじっていた。
私はカイキの方に近づくと、カイキの手元を見る。
カイキはキーボードを驚くほどの速さでタイピングしていて、その目はしっか画面を見ている。
「何をしてるの?」
私はカイキに後ろから話しかける。
「人狼のルールについて調べているんだ。さっき、公衆電話の電波は通じなかったことを話したけどこのパソコンは検索することは出来る。だから霊能者の進行方法を調べていた」
カイキは画面を見たまま私の質問に答えた。
さすがカイキ、場面の把握が早いね。
カイキが市民陣営なら結構有利かもね。
「それで何がわかったの?」
私はカイキに続けて質問をする。
「霊能者の進行方法についてだな。占いが出てから霊能者が名乗り出て、まず怪しいと思った人を二人指名する。そしてお互いに怪しいところを言わせる。その後、霊能者が一番怪しいと思った人を一人指名する。もし指名された人が役職があった場合は名乗り出てもらう。この場合にその人と同じ役職だったときは対抗も出る。今回は狩人だけだな、市民は三人いるから本当かどうかはわからないし。対抗が出た場合はその中から一人吊ると言う感じだな」
カイキがスラスラと長い説明をする。
「そうなんだ、霊能者って結構大変なんだな」
シノが感心してパソコンの画面をのぞき込む。
狩人はやっぱり名乗り出るよね。
まぁ、時と場合によるけど。
「なぁ、霊能者の進行方法がわかったところでそろそろ始めないか? 時間が無くなるぞ」
ユウヤがみんなの方を見て言う。
「そうだな、始めよう」
レオンがユウヤの意見に同情する。
途端に沈黙が流れる。
ただ、窓の外からザァーっと雨音が聞こえるだけだ。
この長い長い沈黙を破ったのはマイだった。
「マイが占い師。昨日、部屋で役職を渡されて夜の時間に占いをしたの。その先は鶴川くん、結果は人狼ではなかった......」
マイが占い師か、それじゃ片っ端から占っていけばーー
「違う、俺が本物の占い師だよ。昨日はホノカを占った。結果は人狼ではない。占い師は一人だからマイは偽物だな」
レオンがマイの対抗で占い師を名乗り出る。
占い師が二人か、レオンが言ってた通り占い師は一人だから片方は狂人か人狼なんだけど......わからないし
「占い師の対抗は狂人だと思う。GMが言っていたように今回は人狼は狂人が誰かぶん、狂人は人狼が誰かわからない。だから狂人は人狼に自分が狂人だということをアピールしなければならない。それだったら狂人は占い師に出たほうが人狼は狂人位置が絞れるからな」
カイキは自分の予想を理由とともに言う。
「カイキ、ありがとう。僕が霊能者だよ.....よろしく」
シノが霊能者を名乗り出る。
「それじゃあ、まずシノが怪しいと思った人を二人指名してくれるか?」
レオンが軽い口調で言う。
「そうだな......姫海堂とユウヤかな。指名した理由は特にない。お互いに怪しいところを言いあってもらえるか?」
シノがアリサとユウヤを指名する。
「私は藤沢さんの怪しいところは見当たりませんかね。そもそも、そこまで話されているわけでもないですし」
アリサはユウヤより早く怪しいところを言い始める。
アリサは人狼ゲームが初めてのはずなのに慣れてるな、にているゲームでもやっていたのかな?
「お、俺もアリサの怪しいところは見つからない。どういう発言が怪しいとかわからなくて。ゴメンな、力になれなくて」
アリサに続いてユウヤも発言する。
やっぱりわからないよね、初めて人狼ゲームをやると。
私も怪しい人を探さなきゃ。
マイとレオンは占い師、どちらかは偽物。
シノは霊能者で確実に狂人と人狼はありえない。
レオンに占われているホノカ、私からして人狼は無くはないけど......カイキの考察からレオンが狂人だとしても初日で囲える可能性は低いと思う。
だから今のところ怪しいのはまだ占われていないミツキ、アリサ、カイキ、ユウヤの四人。
それだったら今日は指名されているアリサ、ユウヤの中でいいかもしれない。
しれないけど――。
でも、クラスメイトなんて疑いたくない。
私の判断で潔白なクラスメイトが死ぬかもしれない。
そんなことできないよ......。
「なぁ、何か意見はないのか?」
シノが少し強い口調で言う。
でも、その声は不安そうに聞こえた。
「私は藤沢さんでいいと思いますわ、よく分からないと言っているだけでほかは何も言ってませんし」
アリサはお構いなくユウヤ処刑をおす。
「あ、アリサ!」
ユウヤは大きな声を上げる。
「俺はこのみんなを怪しみたくないんだ、大切な友達だから。そんな人たちで殺し合いをしてくれと言ったって無理だろ? 実際に俺は無理だ」
ユウヤは感情論を言う。
それはそうだ、私も疑いたくない。
でも人狼が勝ったら私たち市民軍営はどうなるかわからない。
下手したらこれで本当に生死がわかれるかもしれない。
だから今は戦うしかない――全力で。
「レイカはどう思うの?」
いきなりミツキから話しかけられる。
「さっきからずっとしゃべってないけど……」
ミツキは心配そうにこちらを見つめる。
「今日はアリサ、ユウヤの中でいいと思うよ。現状、マイとレオンに占われていないのは私を含めて五人だから」
自分が狩人だということがバレないようにできるだけ短い言葉で自分の意見を言う。
「そうか、白石は姫海堂とユウヤの中で処刑するのがいいんだな。ほかの人はどうだ?」
シノはみんなに意見を聞く。
「あたしはレイカに賛成だよ。ちょっとホノカが怪しいけど」
ミツキは私に同意する。
「ちょっと、うちをなんで怪しむわけ?」
ミツキの発言に反応したのかホノカが逆ギレする。
「だってレオンが狂人の可能性だってあり得るでしょ。それなら占われたホノカは人狼だって見てもおかしくはないでしょ?」
ミツキはホノカを怪しむ理由を言う。
「その可能性は低いと思うよ。レオンが狂人だとしても初日にホノカを囲える可能性は低い。もちろん、ホノカが人狼はなくはないけど」
私はミツキの理由に反対する。
「俺も姫海堂、藤沢の中で処刑でいいと思う」
カイキが静かに付け足す。
「カイキもそう思うのか……」
ユウヤははっ―と深く、長いため息をつく。
「だって今、誰も占われていないのは俺を含て五人いるだろ? だったらその人から処刑していったほうが人狼を倒せる確率は上がる。それに市民が勝ったら死んだ人ももとに戻るんだろ? それだったら市民が勝つことを祈って死ぬしかないだろ、市民なら」
ユウヤのため息にカイキが説明する。
「確かにそうかもしれないな、でも市民が確実に勝てるという保証はあるか?僕たちみんなでもとの世界に戻るってこれるのか? それはないと思うぞ。それなのにカイキは……」
ユウヤがそこまで言うと、体をガタガタと震わせる。
私はふと壁にかかっている時計を見る。
五時五十五分か、あと五分で投票先を決めなくちゃならない。
「そろそろ投票先を決めたらどう?鶴川くん」
マイがシノに向けて言う。
……今、私が言おうと思ったのに。
「そうだな、投票先を決めよう。今日はユウヤを処刑しようと思う。何か役職はあるか?」
シノはユウヤを指名する。
自分の名前を言われたユウヤは体を震わせ、顔を染まっているかのように青くなっている。
まさにこの世の終わりみたいな感じだな。
「……ないな」
ユウヤはやっとみんなに聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。
「ないのか、なら今日はユウヤを処刑するぞ」
ゴーン、ゴーン
六時の鐘が鳴る。
その瞬間、GMがみんなの周りに現れた。
「投票先はお決まりになりましたか。こちらに投票用の箱とカードをご用意しました。カードに投票する人の名前を一名記入し、この箱にお入れくださいませ。なお、自分を投票することはできません。投票時間は一分です、ではどうぞ」
GMが投票方法について説明する。
目の前に箱とカードが見えた。
私はカードを一枚取ると、きれいな字で『藤沢ユウヤ』と記入した。
みんなはもう書き終わっているのか続々と投票箱にカードを入れる。
私も投票箱にカードを入れた。
最後に迷った表情でユウヤがカードを入れる。
「全員投票したので結果を発表したいと思います」
GMはそこまで言うと、箱を開けて中身を確認する。
GMは怖いぐらいの満面の笑みでこちらに向き直ると今日の処刑先を発表した。
「藤沢ユウヤ様八票、よって本日の処刑は藤沢ユウヤ様になりました」
よかった、票は割れなかったみたいだね。
ん、ちょっと待て。
全員で九人だから一票分足りない計算になる。
「僕は投票しなかった。投票しても意味がないから」
私の心を読んだかのようにユウヤが話す。
投票してないのか、なら票数が八票になるのも納得だ。
えーっと、もう一つ気になるのが……
処刑ってどうやるんだ?
私はじっーとGMを見る。
すると、GMは少しだけ口角をあげてニッと笑った。
パァーン
あたりに銃声が響く。
GMの手にはいつの間にか拳銃が握られていた。
まさか――。
私は反射的にユウヤのほうを見る。
バタッ
でも、もう手遅れだ。
頭の中心には、くっきりと穴が開いていて全身血だらけだ。
ユウヤは目を開けたまま死んでいた。
「……」
あまりにも突然のことに全員が言葉を失う。
その中、GMだけはニコニコと微笑みながらこう言った。
「本日の議論は終了です。八時に夕食にしますので食堂にお集まりください。十時半になると夜の時間となりますので役職をお持ちの方は夜の行動を行ってください。十一時に襲撃が行われます、その時間になると自動的に部屋の鍵がかかります。これより翌朝の六時まで部屋から出ないようにお願いします」
そこまでGMがいうと、光の速さで姿を消す。
残された八人は呆然と死んだユウヤを見る。
切り出したのはシノだった。
「ユウヤが人狼だったかそうでなかったかは明日言う。今日はもう解散しよう」
シノは目に涙をためながら言う。
みんなより先にラウンジを後にした。
シノの気持ちはわかる、突然のことだったもの。
現実逃避もしたくなる。
でも前に進まなきゃ。
人狼にのまれる……!
私はそう自分に言い聞かせる。
私はラウンジを去ると自分の部屋に向かう。
部屋は冷たく、すぐに足先が冷えてくる。
すると、一冊の本が目に止まる。
私の好きな本……事件が起きてそれを天才探偵が次々と事件を解決するっていうすごく面白いお話。
移動中に読もうと思っていたけど、トランプをやっていて読めなかった。
もしかしたら今なら読めるかも。
私は本を手に取る。
議論が始まる前に敷いておいた布団の上に座るとはらりと最初のページをめくった。
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