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1日目の終わりに
ゴーン、ゴーン
八時を示す鐘が鳴る。
私たちは食堂に来ていた。
GMが作ったのか、テーブルの上には様々な料理が並べられている。
大きいエビが調味料とあえてあるエビチリ、こんがりときつね色の焦げ目がついたタイの塩焼き、濃厚なパスタソースにほどよい硬さのパスタがからまっていて上にはトリュフがスライスされているカルボナーラ。
普通ならこんなごちそうを目にして手を出さない人などいない。
いないが――。
「おやおや、皆さんお食べください。議論で頭が働かなくなりますよ?」
GMは相変わらずニコニコとみんなに笑顔を向ける。
でも、一向にはしが進まなかった。
そんなの当たり前だ。
目の前でクラスメイトが殺されて……考えただけで手の感覚がなくなる。
……何か食べよう、GMの言った通り本当に頭が働かなくなる。
私は食べられそうなものを探す。
私はタイを少しだけ自分のお皿に取って一口ほおばる。
ほわッと一瞬でほぐれて噛めば噛むほどうまみが広がっておいしい、塩加減もちょうどいい。
たまらず二口目を食べる。
でも、ユウヤのことが頭をよぎった。
その瞬間、さっきまでおいしく感じたタイも味を失ったかのように旨味が消えた。
前を向かないと、過去のことなんて考えたって仕方ない。
そう自分に言い聞かせる。
「はぁ」
私はため息をつくと、部屋に持っていけるサクサクのアップルパイを一切れとって部屋に向かった。
夜の時間である十時半までは自由時間だ。
一人でいち早くお風呂に入った私は部屋で今日の出来事を整理していた。
私は前に配られたプリントとシャーペンを取出す。
プリントの裏に『場面整理』と書いてさっきとってきたアップルパイを小さくフォークで切ると一口食べた。
今、生存しているのは八人。
もし私が襲撃を阻止できなかったらもう一人死んでしまう。
わたしが、私が頑張らないと。
私は最初にいた九人全員の名前を書きだす。
シノの横に『霊能者』、マイとレオンのところに『占い師』、ユウヤの隣に『一日目処刑』と書いた。
ここからだよな。
私は夜の時間になるまでに今日、誰を守るかを決めなければならない。
集中しよう。
まず占い師を名乗っているマイ、レオンを守る必要ないかな。
どっちかは偽物だから襲撃されたほうが本物と考えるのが自然だし。
ってなると、霊能者を守るのがいいかの?
霊能者を最初に襲撃するかと聞かれたら私はしないけど……。
それに人狼目線はユウヤが狩人でない限り、狩人は確実に生存しているということがわかる。
そしたら霊能者を守るんじゃないかと人狼は予想するんじゃないのか?
それなら逆をつこう。
そしたらホノカ、アリサ、ミツキ、カイキに絞れるのか。
個人的に一番市民っぽく見えたのはカイキなんだけど。
でも、カイキが市民でも人狼でもバンバン考察してきそうだからわからないんだよね。
今、思うとやっぱり親友のミツキには死んでほしくないな。
小一からずっと一緒にいてくれて支えてくれた。
そんな心の友を失いたくはない。
こんな気持ちだけで動いてはいけない、そんなのはわかっている。
でもミツキを失ったら……
ゴーン、ゴーン
十時半になった。
その瞬間、目の前にGMが現れた。
今、ノックしなかったよね⁉
ドアも開けてなかったし、どうやって入ったんだ?
「夜の行動のお時間になりました。本日はどちらさまをお守りになりましょうか?」
GMはこちらを見つめる。
決断のときだ。
「私は今日ミツキを護衛する……!」
「かしこまりました、ではもうお休みになられてください」
そうGMが言うと、私に背中を向けて瞬きひとつしないうちに去っていった。
……もうやることないかな。
私は布団に横になる。
もう、こんなゲームから逃げ出したい。
でも電波はつながってないし、ほかのクラスメイトが帰って来ることもない。
すべてGMの思い通りだ。
だからゲームを市民勝利へと導くしかないのだ。
わたしが、私が頑張らないと。
そう思いながら目をつむった。
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