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「そういえば、最近この辺りに『オオカミ』が出るらしいよ。気をつけないとね」
下校途中、隼也がそんなことを言い出した。何を心配しているのだろうか。
『嘘吐きを食べる人喰いオオカミ』
数十年前に現れたその人外の存在は瞬く間に世界中に周知された。
原因も目的も分からない、ただ嘘を付いた人を食べるとされる化け物。
でも同時に嘘をつかなければ襲われることもないらしい。だから今の世界は嘘をつかない事が常識で、嘘をつかないよう躾をするのが倫理以前の義務になっている。
「大丈夫よ。私嘘つかないもん。隼也は嘘つくの?」
「いや、それもそうだな」
はは、と笑い頬を掻く。困った時の彼の癖だ。私を嘘吐き疑いしたのがバツが悪いのだろう。
少し気まずい雰囲気の並んで歩く私たちに、不意に話しかけてくる人影があった。
「君たちは嘘吐きかい?」
その人影はいつのまにか私達の目の前に立っていた。私よりも頭一つ分低い身長にどこか異様な雰囲気を纏ったその少年は、立ち塞がるようにしてこちらを凝視しながら言った。
「……だ、誰?」
たたらを踏む私の前にスッと隼也が立ち塞がってくれる。こういう時何も言わなくても察してくれる幼馴染は心強い。
「うん、君たちが嘘吐きでないなら僕は興味は無いんだ。ごめんね」
それだけ言うと、少年はこちらの質問には答えずそのまま歩き去ってしまった。
「なん、だったんだろう」
「わからない、けど……やっぱり気をつけた方が良いと思うよ」
「う、うん……」
結局その日は不安を抱えたまま、言葉数も少なく家路に着いた。
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