居場所はどこに

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ふと、思ったより時間が経っていることに気づき、哲也は驚いた。 「やべ、そろそろ帰んないと」 「えー、もう?」 「明日も仕事だって言ったろ。お前そんなベロベロなんだから、明日仕事になんなくても知らんぞ」 「冷たいな~、もうちょっと付き合えよ~」 そう言いながら、涼太はテーブルの上に腕を投げ出して顔を突っ伏した。 これは、動かないという意志の表れか。 「寝るなよ」 「だーいじょうぶ、寝ないって」 どの口が言っているのか、それはもう信用に足らない言葉だ。 きっとあと数分もすれば、涼太から静かな寝息が聞こえてくるだろう。 ちょうど今、夢か現か曖昧になっていると、哲也はわかっていた。 「・・・そういえば、彼女元気か」 店内の音にかき消されてもよかった。 会話をするつもりはなかった。でも、 「元気なんじゃない?最近忙しくてあんまり連絡してないけど」 返ってきた声に、哲也は驚いた。 体勢は変わらないままで、どんな顔をしているかまではわからないけれど。 「またそれか。怒らせてフラれるパターンだろ」 「うーん、どうだろう」 「でもその割には、今までで一番続いてるか?いつ紹介してくれるんだよ」 「・・・うん、そのうち・・・」 言葉が途切れて、予想通り涼太は眠りに落ちた。 少し体を動かしてのぞき込むと、穏やかな顔をしていた。 今日も十分に吐き出せた証拠か、呼吸に合わせて微かに肩が上下に揺れている。 でも、哲也にとっては毎回のように、この時間が一番穏やかではいられなかった。 「・・・相変わらず、嘘つきだな」 哲也の寂しげに呟いた声は、当然のように周りの音に紛れて消えた。 嘘をつかせている理由を思うと、深くて重いため息がこぼれる。 そうあることを自分で選んだはずだった。 なのに、まるでそんなことは忘れてしまったかのように。 左手の薬指にはめられた約束の光を、哲也は恨めしく思うのだ。
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