居場所はどこに

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その応対をしてるだけでも、涼太は気にくわなかったらしい。 「おい、聞いてるのか」 「聞いてるよ、腹立つこと言われたんだろ。何言われたんだ?」 「そうなんだよ!適当な仕事するなとか言っておきながら、打ち合わせの時とは真逆のこと言い出したんだ!意味分かんねぇ、適当に仕事してんのそっちじゃねぇか」 吐き捨てるように言って、涼太は頭を抱えた。 国内で有名なファッションブランドのデザイナーをやっている涼太。 学生の頃からその才能の片鱗をみることがあって、ファッションにさほど興味のない哲也でも、涼太には才能があることを感じ取っていた。 デザイナーの職についてからの涼太は着実に力をつけていき、最近では、そのデザインと彼自身に注目が集まりつつあるようだった。 ただ、すべてが順風満帆にいくわけはなく、こうやって何ヶ月かに一度、涼太のガス抜きに哲也が付き合うというのが、定番になっていた。 連絡の来る間隔が少しずつ短くなってきている気がするのが、哲也は少し気がかりではあったけれど。 ただでさえファッションに疎いのに、その業界のことなんて、しがない会社勤めの哲也にはてんでわからない世界だ。 それゆえ、きっと本当の意味で涼太の怒りや苦しみを理解は出来ないだろう。 哲也にはいつも、聞いてやることしかできない。 眉間に深いしわを寄せて、たまに瞳を潤ませて、感情を吐き出す涼太を哲也はただ見守ることしかできず、それが歯がゆくて申し訳なく。 だからせめて、溜まっているものをすべて吐き出せるように。 「あれじゃないか。いざ輪郭がはっきりしてきたら、思ってたのと違うってなったんだろ。それくらい、涼太は言われたことを忠実にデザインできてたってことだ。やっぱりお前はすげーな」 哲也が笑うと、涼太は拍子抜けしたように、それまでの勢いが止まった。 「・・・なんか話がずれた気がする」 「そうか?お前はどう思ったの、出来上がったの見たとき」 「まず売れねぇだろうなと思った」 「じゃあその、案を出してきた人たちは救われたな」 「・・・なんで?」 「だって涼太がいなかったら、ダサくて売れないもん作るところだったってことじゃん。涼太がいたからそれに気付けたんだろ。お前のおかげだな」 目を見開いた涼太は、しばらくして吹き出した。 「なんなんだよ、そのドヤ顔」 騒がしい店内に、涼太の笑い声が混じる。 大口を開ける涼太を見て、哲也はホッとしていた。 ひとしきり笑ったあと、グラスの半分ほど残っていたハイボールを飲み干した涼太は、次を頼もうと呼び出しボタンに手を伸そうとした。 「おい、そこまでにしとけ。さすがに飲み過ぎ」 「えー、せっかく気分いいのに。もう一杯!」 「ダメだ。水にしとけ」 ケチだな、と文句を言いながら、涼太の目はほとんど開いていなかった。
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