4人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
その応対をしてるだけでも、涼太は気にくわなかったらしい。
「おい、聞いてるのか」
「聞いてるよ、腹立つこと言われたんだろ。何言われたんだ?」
「そうなんだよ!適当な仕事するなとか言っておきながら、打ち合わせの時とは真逆のこと言い出したんだ!意味分かんねぇ、適当に仕事してんのそっちじゃねぇか」
吐き捨てるように言って、涼太は頭を抱えた。
国内で有名なファッションブランドのデザイナーをやっている涼太。
学生の頃からその才能の片鱗をみることがあって、ファッションにさほど興味のない哲也でも、涼太には才能があることを感じ取っていた。
デザイナーの職についてからの涼太は着実に力をつけていき、最近では、そのデザインと彼自身に注目が集まりつつあるようだった。
ただ、すべてが順風満帆にいくわけはなく、こうやって何ヶ月かに一度、涼太のガス抜きに哲也が付き合うというのが、定番になっていた。
連絡の来る間隔が少しずつ短くなってきている気がするのが、哲也は少し気がかりではあったけれど。
ただでさえファッションに疎いのに、その業界のことなんて、しがない会社勤めの哲也にはてんでわからない世界だ。
それゆえ、きっと本当の意味で涼太の怒りや苦しみを理解は出来ないだろう。
哲也にはいつも、聞いてやることしかできない。
眉間に深いしわを寄せて、たまに瞳を潤ませて、感情を吐き出す涼太を哲也はただ見守ることしかできず、それが歯がゆくて申し訳なく。
だからせめて、溜まっているものをすべて吐き出せるように。
「あれじゃないか。いざ輪郭がはっきりしてきたら、思ってたのと違うってなったんだろ。それくらい、涼太は言われたことを忠実にデザインできてたってことだ。やっぱりお前はすげーな」
哲也が笑うと、涼太は拍子抜けしたように、それまでの勢いが止まった。
「・・・なんか話がずれた気がする」
「そうか?お前はどう思ったの、出来上がったの見たとき」
「まず売れねぇだろうなと思った」
「じゃあその、案を出してきた人たちは救われたな」
「・・・なんで?」
「だって涼太がいなかったら、ダサくて売れないもん作るところだったってことじゃん。涼太がいたからそれに気付けたんだろ。お前のおかげだな」
目を見開いた涼太は、しばらくして吹き出した。
「なんなんだよ、そのドヤ顔」
騒がしい店内に、涼太の笑い声が混じる。
大口を開ける涼太を見て、哲也はホッとしていた。
ひとしきり笑ったあと、グラスの半分ほど残っていたハイボールを飲み干した涼太は、次を頼もうと呼び出しボタンに手を伸そうとした。
「おい、そこまでにしとけ。さすがに飲み過ぎ」
「えー、せっかく気分いいのに。もう一杯!」
「ダメだ。水にしとけ」
ケチだな、と文句を言いながら、涼太の目はほとんど開いていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!