生きているのか、死んでいるのか

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 けれども不安は消えない。  夜だったからだ。  きっとそうだ。  夜に懐中電灯であんな狭い口から覗いたから、そんな妙な気分になってしまっているんだ。携帯を見ると未だ未読のままだった。昼ならば、今ならはっきりするだろう。  気がつくと車を走らせていた。脇道はやはり鬱蒼としていたが、明るい光の下で見るとその廃社は全体的に腐り落ちているだけの、ただの崩れた建物だった。ジィジィというクマゼミがうるさい。夜と違って『この世のもの』のように思われた。昨日は気づかなかった朱色がほとんど剥げたヒビだらけの鳥居が草木に埋もれている。  暑い日差しに滝のように汗が流れ落ちる。暗い社を正面からひょいと覗いてみたけれど中にあるものは朽ちた長持ちや棚ばかりで、動くものと言えば奥の方にちらりと見えた千切れた御札がふらふらと風に舞っているくらいだった。  思ったより狭かった。一昨日の夜に見た社はもっと暗く奥深くまであるように見えたのに。いや、暗かったから見間違えただけだろう。ひゅうと涼しい風が吹く。  ぐるっと回って社務所に向かう。声をかけて返事がないことを確認した後、郵便受けを押し開けると口から絞るような奇妙な声が出た。同時にぶわぁと腐ったような匂いが溢れて目に染み、黒い蝿がぞわぞわ郵便受けからまろびだし、思わず郵便受けに引っ掛けていた指を離す。ゼェゼェと喉から変な音が出る。俺の指先は細かく震え続け、背中はびしりと濡れた。  やはり、死んで、いる?
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