生きているのか、死んでいるのか

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 ゴクリと喉を鳴らし激しい動悸を抑えてもう一度入り口を押すと、薄暗い室内にはやはり足が2本立っていた。その足は酷く物理的で、例えば幽霊とかそういうものでは断じてなかった。恐る恐る下から眺めあげても膝上のスカートが見えるくらいで、それより上にある顔には至らない。これは、なんだ。  腐臭が途切れない。が、あの女の荷物も社務所の中にあるはずだ。夜食におにぎりかサンドウィッチでも買って、それが腐った、に、違いない。そうに違いない。第一女は立っている。郵便受けを押し上げる指が汗でぬるりと滑った。  そうだ、と思い社務所を壁沿いに移動する。室内が明かるいということは窓があるということだ。それで事態ははっきりするはず。空いているなら中に入って確かめよう。  脇に回ると磨りガラスの窓があった。そこからは確かに玄関の前が見え、磨りガラス越しにぼんやりと人が立っている影が見えた。窓はあかなかったが女は普通に、立っている。死体が立つはずがない。一瞬首吊かとも考えたが、郵便受けから覗いた足の裏はちゃんと地面についていた。  それを確かめに再び郵便受けを震える指で押し上げる。泳ぐ目をなんとか動かすと、オレンジ色のスニーカーは確かに地面についている。けれども違和感があった。全体的に少し、古びた、ような。白い靴下に茶色い染みができていた。それは膝の上から垂れていた。そしてその汚れの周りにぶんぶんと蝿がたかっていた。ぐ、うぅ。とたんにせり上がる嘔吐感。なんだ、これは、どういう、事態だ。わけが、わからない。頭が考えるのを拒否する。思わず後ずさり気がついたらハンドルを握っていた。倒れ込むように実家に転げ込み、俺は意識を失った。
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