あの熱い夏の夜

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 夜景を後ろに1時間も高速に乗れば、すっかり山に囲まれ星灯りと高速の照明灯を除いて全てが闇に落ちた。思えばここから長い闇が始まっていた。  俺も女ももともと言葉数が多い方ではない。その頃には既に話題も尽きて、ラジオのパーソナリティのどこか遠い声を聞きながら車体の僅かな振動が体に気怠く伝わるのを感じていた。あと1時間半ほど走らせると女の郷里につく。そう思っているとふいに隣から声が聞こえた。 「あのさ、高速降りたとこに廃墟があるんだ。探検しない?」 「廃墟? 構わないけど」 「ありがと。行ってみたかったんだ」  女の示す廃墟は小高い丘を登ったところにある神社だった。街道から脇道に入り真っ暗な道をハイビームで切り裂きながら進む。やがて道は高い草に埋もれ、どこに進めば良いかわからなくなった。  仕方なく女の指示に従って道なき道を木々の合間をくぐり抜けゆるゆると進む。本当にそんな場所があるのだろうかと不安に思う頃、ようやく『ここだよ』という女の声が聞こえた。  ざざりと車を止めてドアを開け、冷房の効いた車内から出ると、突然田舎の夜が現れた。  ずんと体にまとわりつく湿度と熱気にそれまで忘れていた汗がシャツを濡らし、濃い草の香りに頭はくらくらと揺れた。耳にはブォーと唸る牛蛙の音とリィリィと掠れる虫の声。五感に訴えられるどこか原初的な暑さに思わず喉が鳴る。  そういえば、田舎というのはこうだったな。  都会のキラキラしいけれどもどこか薄い空気との差。その違和感に、俺の生活の場所はすっかり都会に移ったんだなと感じた。
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