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いるのか、いないのか
女が中から鍵をかけたのだろう。
無事か。
ホッと暖かい息を吐くとともに少しの罪悪感とそれと裏腹に怒りが湧いた。そもそもこんなことになったのは女が俺をここに連れてきたからだ。あんなソファに押し倒したからだ。思い出された嫌な感触に体がぷるりと震えた。
とっとと女を連れて引き上げよう、とガチャガチャとノブを回したが一向に回らない。
「おい、開けろ。もう行くぞ」
どんどんと乱暴に扉を叩いてみたが開かない。木の扉のささくれが棘のように小指の脇に刺さる。痛い。後で抜かなくては。もう早く帰ろう。扉を叩くたびに肩甲骨や腕に汗で張り付いたシャツが引き攣れて気持ちが悪い。
しばらく呼びかけても返答はない。ない返事に苛立ち、ひょっとしたらまた倒れたりしたのではと不安になった。ふと扉に細長い郵便受けがくっついていることに気がついた。しゃがみ込み、蓋を開けて覗きこむ。
扉から1メートルほどのところに白い2本の足が室内を照らす懐中電灯の灯りに浮かんでいた。なんだちゃんと立っている。右足を少しだけ前に出して。大丈夫じゃないか。そう思うと、返事がないことにまた怒りが湧き上がる。
「いい加減にしろ、置いていくぞ」
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