いるのか、いないのか

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◇◇◇ 「たまには家に帰りんさいよぉ」 「忙しいんだよ母ちゃん」 「まぁすっかり都会に染まってしもてからに」  グラスにビールが注がれ、カツンと打ちつけられる。  田舎の晩飯はわいわいと賑やかだ。20畳ほどの開け放たれた広い座敷に15人を超える大人が入れ代わり立ち代わり集まっていた。  本当は今日の昼に挨拶周りをする予定だったのが実家につくと同時に眠気が限界を超えて、気がついたら外はオレンジ色になっていた。無為に1日を過ごしてしまった。そういえばと思い夜中に刺さった棘を抜こうと手元を見たが、何かが刺さった皮の破れと赤い跡はあるものの棘は見当たらなかった。違和感はあるがきっといつのまにか抜け落ちたのだろう。  思い出して携帯を開く。SNSに女からの連絡はなかった。まだ怒っているのか、俺と同じように寝ているのか。『連絡がほしい』とだけメッセージを飛ばし、あとはいつの間にか始まっていた田舎の宴会に巻き込まれた。  散々飲んで、俺や幼馴染の小さかったころの話がエラーのように繰り返されて、なんだか懐かしいようなとっとと都会に帰りたいような複雑な気持ちで酒を喰らい、そしてふと、夜中に目が冷めた。  流しで涼しく透明な水を汲む。やはり実家のほうが水はうまいな。都会より。  都会。そう思って女のことを思い出して携帯を開く。メッセージは未読スルーだった。なんだよ、と思いつつ、朝は大丈夫だったがそのまま倒れてやしないよな、と不安になった。俺は開け放たれた座敷で寝ていて、その蒸し暑さは昨日の夜を思い起こさせたから。
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