いるのか、いないのか

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 漠然とした不安を抱えて車に乗り込む。ざりざりとした未舗装の道を進み、記憶をたどって脇道に入る。ハイビームに照らされるまだ新しい轍と草が倒れた跡を追いかけ昨日の神社にたどり着く。廃社は昨日と同じように朽ち、何やら昨日よりおぞましい気配を湛えていた。昨日は2人で今日は1人。だから恐ろしく感じるんだ。そう自分に言い聞かせて社の後ろを通って社務所にまわる。    恐る恐るノブを回すが開かなかった。大声で呼び、扉を叩いても返事はない。やはり家に帰って俺のことを無視し続けているだけだろう。杞憂だ。そう思って、念の為に郵便受けの薄い扉を指先で押し開けると、室内は真っ暗だった。  昨日のように懐中電灯の明りはない。何の音もしなかった。やはりいないのだろう。念の為と思って持参した懐中電灯で郵便受けを照らして、尻もちをついた。全身の皮膚が泡立った。  白い、足。細長く室内に差し込む光はそこに立つ2本の足を映し出しす。昨日と全く同じ、足。何故? どういうことだ。 「おい。返事しろ」  再び扉を叩くが返事がない。混乱と、意味のわからなさに湧く恐怖。待て、冷静になれ。ずっとここにいたのか? それなら電波が繋がらないから、メッセージの未読スルーはわかる。だが。なぜここにいる。腹はすかないのか。俺に怒っている? そうだとしてもここに居続ける理由がない。何故、帰らない。まさか、帰れない?  立っている……ということは、倒れていない。無事なことは無事、なんだよな。わからない。  もう一度郵便受けに懐中電灯を捻じ込む。凹凸の少ない2本の、足。足首までの白い靴下とオレンジのスニーカー。確かにあの女が昨日履いていた靴。わけがわからない。ぷぅんと蝿が1匹纏わりついてきたのを追い払う。なんだか無性に恐怖が襲う。逃げたい。だがこのまま置いていって、いいのか。返事はない。たった今現在進行系で何かが変化しているような、その変化を放置してはいけないような、恐ろしい予感。  闇に絡み取られて変な汗をかきながら、俺は蒸し暑い夜の終わりが近づくまで動くこともできず、薄い日の光が差し込むとともに逃げるようにフラフラと実家に逃げ帰った。
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