生きているのか、死んでいるのか

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生きているのか、死んでいるのか

 一眠りすると昼だった。ばあちゃんが用意してくれた冷たいそうめんを啜りながら昨日の夜を思い出す。確かにあの社務所の中にはあの女の足があり、突っ立っていた。一昨日と全く同じ場所だったように、思える。何かが、おかしい。チリンと風鈴が鳴った。涼しい風が吹いている。  縁側でスイカを手に取ると、ばあちゃんが俺に話しかけてきた。 「今晩も火を焚くけんねぇ。おらんとあかんよ」 「わかってる」  昨日、夕方起きたらそのまま家族で菩提寺に墓参りに行った。  うちの田舎のお盆の風習は少し変わっている。墓で点した蝋燭の火を提灯に移し、先祖が道に迷わないよう帰り道に提灯をかざして家まで案内する。その火を盆が終わるまで仏壇に灯し続ける。盆の間は毎晩、仏壇からとった火を家の庭で焚きその炎の上を3回跨ぐ。盆の終わりには仏壇の火を提灯に移して菩提寺まで行き、その墓に火を戻して先祖にお帰り頂く。  詳しくは知らないが、火を跨ぐと先祖との縁が強くなるらしい。  そんなことを思っていると、なんだか妙にあの女のことが気にかかってきた。まさか亡者? いや、あの女は立っていた。だから、生きているはずだ。  やはり不安にかられる。俺は一昨日の夜、本当は女を殺してしまって、盆で帰ってきた女があの社務所から出られずにいるのでは。そんな馬鹿な。馬鹿馬鹿しい。そんなはずはない。物理的に。
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