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ひとめ惚れだった。
たぶん、向こうも。
はじめてあなたと出会ったのは、冬の終わりの昼下がり。
誰もいない河川敷。長くて広い川にかかる大きな古い橋の上をふと見ると、まさに、セーラー服姿のあなたが、今まさに飛び降りたその瞬間だった。
あ、
と、声にならない声がわたしの喉から漏れて、世界がスローモーションになる。
ふわりと落ちていくあなた。
長い髪が落下になびいて、羽のように広がる。人間が落ちるときは頭が下になるって本当だったんだ。
あなたと目が合った。
白くて小さな顔、遠くからでもはっきり見えるほどきれいな瞳。それを目にしたとき、わたしは――心臓がどきんとするのを感じた。息をのみ、すべての音が消え去ったような気さえした。
目が合った。
あなたの表情が、わたしを見た瞬間に変わるのがはっきりと見えた。たぶん、わたしもあなたと同じような表情をしていたと思う。
時間が止まった。わたしたちは十メートルくらい離れていて、お互いに会話もできないくらいの距離があったはずなのに、見ず知らずのふたりのはずだったのに、心が通じ合うのを感じた。
わたしが頷くと、あなたも頷いた。
だけど悲しいね、とあなたが呟く。
「せっかく出会えたのに、もうお別れだなんて」
わたしも頷いた。
あなたが卑屈そうに笑う。
「もっと早く出会えていたらよかったのに」
水しぶきの音。
あなたが消えた川面を見ながら、わたしは、もっと早く出会っていたら、というあなたの言葉を否定した。
「あなたが飛び降りていなかったら、きっとあなたのことは好きにならなかった」
だけど、あなたのことが好きになってしまったのだ。
もうわたしは普通の女の子ではいられない。
さようなら、失恋。こんにちは、永遠の初恋。
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